Ten years,tender years


 調べ物があるので。七海はそう告げたはずだった。調べ物ってなんだろう? 女の子のお尻が上下すること? それとも物欲しげな女の子がやらしい言葉を喋ってたりすること? 何を喋ってるのか気になったのかなあ。二人でのんびりソファでめいめい過ごしていたはずなのに、急に席を立ったのはむこうだ。やけに帰ってこないなと思って彼の書斎に立ち入った時の顔は忘れられない。凶悪な見た目の下半身を出しながら、椅子に斜めに座ってタブレットにイヤホンをつけて、ドアのそばに立つ私をみてぽかんと口が半開きになっていた。微かに絶頂する女の子の声がイヤホンから漏れていて私はうっとりと七海を見つめる。
 私が部屋に踏み入ると、七海は慌ててタブレットを伏せようとして誤ってイヤホンをぶち抜き、下半身を仕舞えないままくるなと私に告げる。私は七海の目の前に跪いて机の上のタブレットを取り上げ――おっぱいの大きい女の子が身体を男の上で踊らせている――動画をタップして現れたタイトルを口にする。

「プルプルおっぱい爆揺れ生感覚――」
「やめてください」
「――ご奉仕爆乳お姉さんの中に」
「やめろ」
「あっ、結構気持ちよさそうだね」

 ほら見て? と私はタブレットを七海に向ける。イヤホンジャックにもう何も刺さっていないせいで、画面の中の女優が気持ちよさそうに身を震わせながら男の上で達しているのを七海に見せつけると否応なく彼の下半身は反応していた。

「何調べてたの?」
「ノックぐらいしてください」
「したよ? おっぱいの揺れ方とか調べてたの?」

 私こんなに大きくないもんね? と七海の前で片方の胸を手で持ち上げて自由落下させる。そこまでなくて悪かったな、と思いながら画面の動画を止めてタブレットのフラップを閉じた。

「お姉さんはいけてたけど、七海くんはできなかったのなな?」
「わかっているなら出ていってください」
「もうちょっとだったのにねぇ」

 手を伸ばして、目の前に先走りを零しながら震える七海に触れる。ぴくんとすぐに手の中のものは期待に反応するものの、持ち主は至って強情だ。

「触るの、いや?」
「……一人で、できますので」
「一人でして欲しくないから触ってるんだけどなぁ」

 七海の返答を聞かずに私は手の中の膨らみを指で扱き始める。途端に七海は腰を揺らしながら世界で一番説得力のない抗議を始める。私が手を傘の裏側にかけるたびに重く熱く息を吐くくせに、一人でできるなんていう。指を輪にして筋を撚るたびに、中をぎちぎちと膨らませてそんなの気持ちよくなるわけがないと。段差を先走りでにちにちと咎めるたびに腰を揺らして吐息をつきながら私のことなんて嫌いだという。嘘つきだなあ。昨日私のことをめちゃくちゃに抱いて今日のお出かけを白紙にしたのは誰だっけ? 私は痛む身体を思うと少し自己憐憫の気持ちが湧いて目の前の膨らみの先端を口に含む。青臭い味が舌先に触れて本当に最悪だけれど、七海の顔を見上げればとろけた顔で私を見ていて、手の中の膨らみの根本がさらに固く熱く変化しているのがありありとわかる。嬉しいんじゃない。そう思って一通り先だけ舐めて口を離せば、非難めいた色の吐息が頭の上から落ちてくる。両手で膨らみを触っても、七海は違う、としか言わずに私の頭に手を置いた。

「……口で、してくれないんですか?」
「顎外れそうだから嫌」
「じゃあ普通にしませんか」
「無理。身体ぼろぼろだから」

 手の中の膨らみははやく解放してほしいとばかりに震えたり準備万端だとばかりに涎を垂らしている。七海の健全な欲望を満たすにはちょっと私の方が対応しきれない。体格が良かったり死線を潜り抜けると性欲って比例して強大になるのかな。男兄弟がいたことがないのでわからないけれど、少なくとも七海を見る限りそんな印象を受けた。昨日は出張帰りだった。毎度彼はぼろぼろの身体で帰ってきては私を抱く。日勤の私は極めて普通の金曜日で、それを受け入れることはできたけれどキャパシティを超えてこのざまだ。

「いい子にするなら気持ち良くしてあげる」

 七海に応えてあげたいという気持ちは、ないわけではない。ただ私のフィジカルの問題だ。七海が私にしてあげたいことはたくさんありすぎて私には受け取りきれない。でも受け取りたいからこうなってしまう。それに私のことが大好きなのはいつだって言葉以外でもよくわかるので、あんまり彼のことを無碍にしてあげたくもない、というのが私のスタンスだった。私にぶつけなくて一人で処理して偉いねという気持ちと私じゃ不満なの? という気持ちがないまぜになって私の唇が音を紡ぐ。

「いい子にしててね。手はお膝」

 七海は私の頭から手をどかして自分の膝の上に手を置く。動かしちゃだめだからね、と約束を一つ追加して書斎を出る。やりたいことはもう頭の中で決まっていた。
 
 書斎に戻れば七海はじっと椅子に座っていて、元気に下半身を空気に晒したままだった。イヤホンが片付いているのできっと膝から手を離したのだろう。

「いい子にしてた?」
「……しました」
「ずっと手はお膝、できたかな?」
「置きました」
「嘘つき」

 イヤホン、綺麗に机に巻いておいてくれてるもんね? そう言いながら私は七海の後ろに立って彼の耳に囁く。

「ねえ、手いじりする悪い子はお仕置きしなきゃ。両手、こっちにくれるかな」

 七海はそうっと手を膝から離して、椅子の後ろ側に腕ごと向ける。手のひらにうっすら汗をかいていて、七海が興奮しているのがわかってちょっと嬉しい。私はポケットに入れていた使い古しのストッキングでその手首をまとめてくるんとリボン結びをした。こんなのに拘束力があるわけがないことも、七海が本気になればこんなのぶち破れることなんてわかっている。これは遊びなのだから。

「どうして嘘ついたの?」
「……ちょっとだけじゃないですか」
「すぐバレるんだから、イヤホン外したよって、教えてくれればそれで良かったのに」

 否。私は多分そう言われても今と同じことをしていた。

「いい子じゃないから、建人くんにはいい子いい子できないね?」

 七海の足の間の膨らみに手を伸ばして、握り込まずにその背を撫でる。もっと触ってほしいとばかりに動くのを宥めて私は七海の足を開かせてその間に座り込む。

「建人くんがいい子だったら最後はお口でしようかとおもったけどなぁ」
「……嫌だ、いい子にします」
「だめ。嘘つきにはしてあげない」

 ふう、と涙を流す先端に小さく息を吹きかける。つめたさで震えるのが面白い。面白いなんて言ったら二度とやらせてくれないだろうとは思うけれど。

「代わりにね、試してもいいかな」

 ポケットから二つのものを取り出す。ひとつは、私の古いストッキングの洗い晒し。もう一つは、七海が寝室の引き出しに隠し持っているこういうときのためのローション。後者については七海が使う機会をじっとりと待っていたのを知っている。それでその機会がなくて自分でたまに使っていることも、残量を時々見ていれば分かることだった。一度盛り上がってそういうおもちゃとか衣装を買ったものの七海は着せたりする前にがっついて私を立てなくするので、今のところ一緒に遊べた試しがない。それでも彼はそれらを捨てたりせずにいつだってそういう機会を待っているのを知っている。

「きれいにしようね」

 ぱき、とキャップを開けて七海の膨らみに真っ逆さま。粘度のゆるいそれは手と七海の間に粘着質に溜まっては二人の皮膚の温度を吸う。お互いの皮膚に馴染ませるように多めに取ったそれを介在に七海を両手で揉む。温度差だったり質感だったりで、頭の上から小さい吐息が音になって出てきているのを無視する。透明の新しい蜜はグレーズをかけたように七海をぴかぴかとてからせては手を滑らせる。全然力が入らなくて、強めに扱かないとふにゃふにゃぬるぬると手から滑り出てしまいそうだった。実際そうすると七海は明確に「あっ……」と息をこぼして膝で私を抱え込もうとする。

「建人くん、これきもちいの?」
「ん……ッ……やめないで……ください」

 手が疲れたなあ、と思って手を止めたものの、七海が珍しく懇願するので液を集めて一番先になすりつける。にちゃにちゃ指先で弄ぶだけで七海は再び分厚い肉体を震えさせながら私の与える刺激に耐えていた。白い頬が赤くなっていてかわいい。私を抱く時はギラギラしている目がとろんとしていて抱きしめたいくらいだ。でも今抱きしめたらこのどろどろが顔につくので絶対したくない。とろんとした目で物欲しそうに私を見つめて快感を得ている恋人ってこんなに可愛いんだと思うとなんとなく昨日のご無体も許せる気がして私はさらに蜜を足す。温度差でつま先に刺激を逃していて、足に力がはいっているのを感じる。かわいい恋人は欲望に正直で欲しがりで、私のことを信用しているのが手の中からも表情からも、どこからもありありと伝わってきて私はもうちょっとだけサービスしてあげたいなだなんて優しさがつい芽生えてしまう。
 ならば、と私は七海の丸くてつやつやと張り切った先端に寄せたローションを吸わせるようにストッキングをあてがう。吸水性なんてあるわけもないそれは細かな網からぷつりぷつりとローションを通して、押し付ければ押し付けるほどそれが進んでローションの中に化学繊維の布が揺蕩うだけになってしまった。七海は小さくいやだ、と漏らした。

「これ気持ちいいんだって。建人くんはきもちいの、大好きだもんね。もっと気持ち良くしてあげる」
「……やだ、や……やめてください」
「まだしてないじゃん。ね、試してみよ」

 ローションでべたべたの手でストッキングを掴んでずぶ濡れた部分からそろそろと動かす。右につるん、と動かすと思ったよりも簡単に皮膚の上をストッキングが動いて七海が抱え込むように呻きながら私の身体を足で捉えて頭の上に七海の頭が降ってくる。ごく至近距離で、七海が荒い息を吐きながら私にやめてくれと懇願している。気持ちがいいだろうことは明白なのに。

「やだ、やめ……ッ」
「なんで? 気持ちいいのに?」

 にちゃにちゃと粘着質な音が手元から起きている。いきなり七海に覆い被さられて熱い吐息の檻に閉じ込められていて、細かくしか七海を撫でてあげることができない。私が手を小さく滑らせるたびに喉の奥から噛み殺すような唸り声が聞こえてこの刺激が想像よりも強いだろうことはわかる。

「は、あ……あの、……」
「んー? なあに?」
「……ぐッ……ァ……あ……」

 七海の腰が前後に動くせいで、ストッキングが破れそうだ。明らかに達しているのに手元には彼の精液が出ている気配もなくて、ただ彼もわかっているのかいまだにビクビクと腰を揺らしては私の手元に争っている。

「で、でな……」
「気持ちいいのに出ないんだあ」
「出したい……に……」
「私以外で気持ち良くなろうとしたからじゃない?」

 七海はふうふうと荒い息を吐きながら、合間に私の名前を呼ぶ。すみません、なんて言われてしまうともっとちくちくいじめたくなってしまうのをわかっているはずなのに、彼は目の前で破裂しそうになった欲望を前にそんなこと忘れてしまったらしい。出したいんだ、だから他も触ってほしいんだ、と私の肩口に顔を擦り付けて嘆願する七海が可愛くて仕方がない。気持ち良くなりたくて一生懸命になっている七海なんて他の誰にも見せたくなくてキュンとする。今、彼のことを気持ち良くできるのは私しかいなくって、彼は無様に私の前でそれをおねだりしてはぐずぐずと鼻を鳴らしている。

「も、だめ、です」

 彼はガタガタと身体を揺らして、それから次の瞬間に椅子を後ろに蹴り飛ばした。キャスターのついた椅子はガラガラとインパクト地点から音を立てて壁に転がり、彼は私の前で床に膝をついていた。外れた手首のストッキングの抑えは床に落ちていて、多分最初からうまくかかってなかったけどかかったつもりでいてくれたのだろう。私は両肩を彼に掴まれていた。そのせいで、ストッキングを彼に押し付ける羽目になり――結果的にそのまま力のかかる方向にぺたんと床に背中がつく。そのまま彼が真上にいて、真っ赤な顔で息を切らしながら私を見下ろしていた。ショートパンツから出た自分の足にローションが垂れてきたのを感じて七海の下腹部を見れば、引っかかったままのストッキングはそのままにお腹につくような勢いでひどく猛り狂って抗議をしていた。

「抱いてください……」
「……全然おっぱいないけど」
「そんなこと」

 かくんと七海は頭を私の胸に預ける。部屋着のTシャツの上から七海の息が荒く熱く肌を突き刺してちょっと気持ちいい。そのまま七海は手で触れたいように扱いてストッキングをびたびたになるまで汚し、私の身体の上で落ち着くまで身を震わせていた。ぁ、と小さく漏れる七海の吐息が可愛いなんて言ったらきっと怒るだろうと思いながら休日で下された彼の髪を撫でる。もうこんなことしないでくださいと彼は事後、書斎に落ちている全てのストッキングを捨てて赤い顔のまま怒っていた。さらには今度はあなたの番ですだなんて不吉なことを言う。ほんとうはお仕置きのはずだったのに七海ばっかりいい思いしちゃって。私はそう思いながらその発言を咎められないでいて、本当は、その言葉を聞きながら今度どうなってしまうのか、実際のところ楽しみにしてしまっている。