xoxo
ティーンの女の子は、たぁ〜いへん!それに…。それになんだって?と露伴はフルカラーの表紙を弾いてソファの上に寝そべる
マリエの注意を引いた。まるで毎週深夜に楽しみに
マリエが見ているアメリカン・ドラマの冒頭のセリフみたいに作られて少女めいたその露伴の読み上げる声に
マリエは笑って雑誌をとじた。
「And who am I?」
「That's one secret I'll never tell. 」
「私の事好きでしょ?」
悪ノリは通じたらしい。突然の
マリエの発言に露伴は迷いもせず続けてきて、
マリエもそれを返して笑えば露伴はさらにその続きを口にしながらソファの
マリエの上に跨ってきた。
「キスもハグももう十分したでしょ」
「いいや、どれだけお預けされたか考えて欲しいね」
続きの言葉に見合うように露伴は体重を掛けて
マリエの唇を奪う。二人の間に挟まれた雑誌の角が体に刺さって痛い。それをどけようと
マリエは雑誌を引っ張り上げようとしても露伴はその手を掴んで離さない。まるでその手が露伴を拒むとでも思っているのかと誤解しているのではないかと思えるくらいの力でその
マリエの手を掴んで肩に押し付けるように彼は
マリエの上に乗っていた。細身とはいえ、成人男性の力である。ちょっとばかりいろいろなところが痛すぎて
マリエは抗議を少しだけ込めて露伴の唇を噛んでやったけれどもそれすら舌で退けられて、その抗議は受け入れられないまま
マリエは露伴を受け入れていた。
ギイ、とソファが2人の攻防に抗議の声を上げたところでやっと露伴はその顔を上げて上から余裕なさ気に
マリエを見下ろす。唇ばかりが濡れていて、ちょっとだけセクシーでかっこいいだなんて自分の息も整えないで
マリエは思っていたけれどもむこうはそんな余裕もなさそうだ。一体どうしたというのだろう。昨日の夜からこの家に滞在しているというのに今更。一晩中遊んだじゃない、おかげさまでこっちはちょっとばかし気怠い気持ちなんだけどとすら
マリエは思っていた。昨日の名残か久々にヘアバンドも何もしていない姿を見ている。
「露伴」
「ベッドとここと、どっちでしたい」
「勿論ベッド」
じゃあここでしようか。雑誌を床に下ろしたばかりの
マリエに露伴はいつもの天邪鬼を垣間見せる。どうしてここまで露伴の機嫌が悪いのか
マリエはわからないまま、床に雑誌を下ろした手をそのまま露伴の独創的なカッティングのシャツに持って行ってそれを掴んで引っ張った。それを脱ぎかけていた露伴は自分の行動が妨げられたことに少しだけ冷たい視線を
マリエに向けてなお脱ごうとする。
マリエはもう片方の手もその裾に加えてそれを阻止して笑えば、明らかに上に乗る露伴は不快感を顔に表していた。
「何があったっていうのよ」
「うるさい、いいからやるぞ」
「せめてお昼食べてからにしようよ」
起きてからどれだけ時間が経っていないというのか。今日はいつも起きる時間なんかよりずっと遅く起きてしまったし、それでいてさっき長風呂をして涼んでいるくらいじゃあないか。そりゃあ時間にしたら4,5時間位は経っているけれど、と
マリエは思いながら露伴のシャツに指を絡ませていた。面倒に思われたのか露伴はそれを脱ぐのをやめて再び姿勢をおろそうとしているのに気がついていたけれど、それをするにも自分の腕が邪魔になっていることを
マリエは自覚したまま裾いじりを止めることはなかった。
「荒っぽいセックスは嫌」
「噛まれるのは好きだろ」
「それとこれとは話が違うわ」
クイと裾を引っ張って離せば、倒れこむように露伴は再び
マリエの上に覆い被さる。今度は両手を
マリエの肩の上について、触れこそしないけれどもごく至近距離露伴の瞳は
マリエだけを捉えていた。
「何が嫌なんだよ」
「どうしたの」
「いいから、抱かせろ」
鼻の先がこすれあってくすぐったい。いいこいいこ、とあやすように
マリエは露伴の背中に手を回せば、そんな子供騙しは僕には通用しない、だなんてぴったり触れない距離から言葉が直に
マリエに当たる。ここまで近いと、音の響きも違って聞こえるなあと
マリエは視界に露伴だけを映してそれを享受していた。呼吸が熱い。私の呼吸も伝わっているかもしれないけれど。
「いやだよ、昨日は優しかったでしょ」
「久々だったからな」
「いつもなんだかんだ言って優しいのに今は変だからしたくない」
腕の下から逃げるには逃げ場がもうないけれど。この距離で伝わらないわけがないと思いながら目の前の唇にそれを伝えても露伴は瞬きもせずに
マリエを捕らえる姿勢を続けていた。
「じゃあこのままでいいな」
「もう、これじゃ何にもできないでしょ」
「しなくていいんだよ」
何にもしなくていいんだって、しなくていい、しなくて。繰り返される言葉が少しだけ震えていたのに気付くのはこの距離だからかもしれない。いつもみたいにテーブル越しなら、それか彼の肩ごしだったら気付かなかったかもしれない。
マリエはそのまま背中に乗せた手を解かずに彼の浮いた肩甲骨を撫でて、それからシャツの裾から手を入れて直に皮膚に触れた。
「露伴がいつもどおりじゃないからなにもしてないと不安になっちゃうな」
「何もせずにここにいてくれさえしたらいいさ」
「うん、じゃあ抱っこしてほしいな」
良いでしょう?そう背骨をたどりながら、鼻をもうすこしだけ突き出して甘えれば露伴は満更でもなさそうに目を眇めた。
マリエがソファの背の方をすこしだけ開ければ露伴はそこに身を置いて、それでいて
マリエが立たないようにと相変わらず腕を掴んでいた。姿勢を改めつつ相変わらず
マリエを腕の中に閉じ込めてなお露伴は自由を許す気がないらしい。
「駄々っ子ちゃん」
「その呼び方はやめろ」
「気に入ってるのに」
「僕がまるでダメな人間みたいだろ」
「そうねえ」
自覚があったとは思わなかった。
マリエはかねがねそう思っていたけれど、でもそれも大概誰だって似たようなところがあると思っていたから別にダメとも良いとも深くは考えたことがない。ただ、まるで化物みたいに仕事に打ち込む彼が――紙面では人当たりの良さそうな人格を装っているからなおさらそう思うのだけれども――こうして甘えてくることだけはどうしようもなく好きで、その部分も含めて愛していたのだからその発露として一番正しい表現が駄々っ子ちゃん、であっただけだというのに。
「僕だって常識くらいあるし、大人だ」
「知ってる。だからこうしてくるのが可愛いと思ってるの」
「可愛いって言うなよ」
ちょっと悔しそうな表情で露伴はそう言って
マリエのシャツの背を掴んだ。元はといえばこれだって彼のシャツなのだけれども、なんだかんだこうしていつも借りては着ていたっけ。明らかに大きいそれはさすがに彼が掴んでも余るのか、いつもなら一度で終わる手繰り寄せ方も数度繰り返されてやっと
マリエの皮膚に感触が近くなる。
「外での露伴はいっつもかっこいいけど、家での露伴はいっつもかわいいんだもん」
「だから、僕はかわいくなんてありたくないんだってわからないのか」
「いっつもかっこいいんじゃ疲れちゃうもん」
ずっとドキドキしてたら破裂しちゃうでしょ、と
マリエは露伴の肘を引っ張って、彼が上からシャツを手繰り寄せていた手を寄せる。その大きな手に自分の手を重ねながら自分の胸部に持ってきて、胸の間の骨の上に手を重ねて置いて心拍音を伝えようとする。このまま手を入れられても抵抗はするまい、と思っていたけれど、目の前の露伴はそうはせずに神妙な顔で相変わらず視線を外さずに
マリエを見つめていた。
「その顔かわいい」
「…うるさいな、喋ったら聞こえないだろ」
シィ、とやっといつものふざけた語調で露伴は唇を横に開く。嬉しくなってそれに首を伸ばしてキスをすれば、深追いしてこないままやっと露伴は瞳を閉じて、珍しくしおらしくため息をついて
マリエにごめん、と軽いささやきを落とすのだった。
「きちんと謝るべきだとおもうから、先に言っておくけれど、僕は今朝君の記憶を、読んだ」
「気が付かなかった」
「君は見えないだろうし、それに、寝ていたし……本当にごめん」
彼は妙な特技を持っている。
マリエにはわからないけれど、それを告げられて確かめるために
マリエの古い、誰にも告げていない秘密を口に出して確認されたことがあって以来
マリエはそれを信じていた。あまり見ないで欲しいとはじめに告げはしたけれど、別段見られても困ることなんてなかった気がするから別に見られてもいいとは思っていた。見られたところでちょっと恥ずかしいことがたまにあるくらいだ。
「それで、言っておいてなんだけど…」
「何か気に障ることがあったかなぁ、確かに最近は忙しかったけど特に何もなかった気がするんだけど」
「いやいやいやいやあれを何もなかったっていうのはどうかしてるぜ」
しおらしさから一転、露伴はそう目をきちんと開いて、それから少し
マリエの胸の上の手の指に力を込めてそう言ったので
マリエは少し驚いてしまう。ただでさえ近いんだから、と思いながら
マリエは自分の手の下の露伴の手をちょっとだけ撫でて窘める。ここ一ヶ月は忙しくて確かに夜泊まるどころか、会うことだって1週間に1度取れない時のほうが多かった。そのせいで昨晩は激しかったのだと思っていたのだけれど。
「かわいい彼氏がいるんです、って言ってただろ、その、
マリエの思うかっこいい人と、夕飯食べながら」
「ああ、あの人はね、上司。本当にかっこいいのよ、だって元モデルさんだし」
「僕はちょっとだけそれに妬いたんだよ」
いつだって
マリエは可愛いとしか言わないだろ。そう言って露伴はばつが悪そうに目を細めた。可愛いなあ、こんなところさえ可愛いと思えるのはきっと私しかいない。そう思って
マリエは首を伸ばして露伴の唇にもう一度触れるだけのキスをする。
「かっこいいって言って欲しかったの?」
「それから、あんまり寂しがってなかったのを読んだのもある」
「寂しかったよ?」
読むなら全部きちんと読んで。そう言って
マリエは少しだけ眉を寄せる。ちょっとそれに狼狽えている露伴すら可愛いと思えてしまうの自分が、今どれだけ充足しているのかわからないのだろうか。
「今読みなおしてもいいよ、ちゃんと寂しかったことも読んで」
「いい、いいよ、わかったから」
「どう思ってたか言うの恥ずかしいから、読んでってば」
それじゃあとばかりに露伴の手は
マリエの手の下から離れて顔の前で指が動く。それと同時にフッと
マリエは露伴の腕の中でおとなしくなって、一瞬ためらいながらも露伴は
マリエの顔に手を伸ばした。
「悪かった」
目を覚ました
マリエが見たのは、最後に見たよりももうちょっとしおらしくて、それからちょっとだけ照れた風味も乗った露伴の顔で、その表情で自分の記憶がきっちり読まれただろうことを理解して
マリエは微笑んで彼の名前を呼ぶ。
「かわいい」
「そうか」
「照れないでよ」
怒ったり照れたり忙しいんだから。
マリエは露伴の肋骨に手を置いて距離を少しだけ詰める。さて、どこまで読んでくれたのだろう。露伴は最初の不透明に濁った視線から打って変わって綺麗な目で私の視線をそのまま受けていた。地味にまつげが長くて綺麗だなあと思っていることも、もしかしたらバレているかもしれない。
「誤解してた」
「ちゃんとわかってくれた?」
「ああ」
外から正午を告げる防災無線が窓を震わせる。お昼にする?と
マリエが問えば、それよりかはどうやってしたかを見たいんだがなァ、と目の前のほのかに赤い目尻は意地悪く言葉を吐いたので記憶がきちんと全て読まれていたことがわかる。確かに
マリエは先々週に寂しさの限界を迎えて露伴と電話をしながらその身をベッドで一人で震わせていたけれど、彼の好奇心の前にそれを晒すのはまだ恥ずかしさがあって、今度は
マリエが頬を赤くする。立場の逆転とともに露伴はその赤い頬を指で触れながら、こういうのを可愛いと言うんだ、とその語を定義する。
20160130 chloe