what papa told me

最近のマリエは、非常にむずかりやさんであるというのがDIOの見立てである。まず起きた時からしておかしい。平均的DIOの起床時間に起きなければ、起こした所でむずかって抱き起こすことをひどく望む。それで機嫌が直れば良いほうで、だいたいソファに下ろせばまたむずかって抱いて移動することを望むからDIOは結局彼女を抱いたまま階下に降りることになる。住人の視線はそっと外されていることが多い。最初のうちは言葉もなく手が伸ばされたが2日、3日と続くうちに彼らはそういう遊びなのだろうとそっと視線を外すようになったのだ。そういう遊びでもなんでもなく、DIOがそれに了承した覚えはないのだが。空腹に拠るものかと思ってテーブルにつかせたらこれまた甘えて食べさせてだなんて発言をするのでほとほと困り果てたが、ハンガー・ストライキを起こされるとDIOとしても彼女の血液の質が落ちることを理解していたのでスプーンでミルクポリッジを膝の上のマリエに運んでいた。甲斐甲斐しいとテレンスはそれを評したが、いっそ彼にやらせたほうが人形遊びの延長でぴったりなのではないかとDIOは思っていた。マリエに触らせる気などなかったのだが。
この食事が終わるとめっぽう彼女の機嫌は良くなって、DIOがそのまま抱き上げて部屋に帰り着き、その首から少しずつ食事をするなりベッドから立ち上がってじゃあ、私お風呂入ってくるからだなんて言って足取りも軽く出て行ってしまう。全く理解に苦しむ行動だった。理解する気もなく、ただそれを放置してDIOはその間に一日の行動を開始する。そしてどうせ寝る前になったらまた半泣きの様相でベッドに上がり込んではDIOを呼び、その体を抱いた瞬間にとろとろ眠りに落ちるのも通例となりかけていた。これで4日目である。服を脱がす前に背を撫でていると眠ってしまうのでDIOは戯れに向かいのマリエの尻を叩く。ぐすぐす鼻を鳴らしながらマリエはDIOの首によりしがみついてくるのであった。
「何が不満なんだ」
「特にないよお」
顔を上げさせれば、マリエは安心しきった顔でDIOを見上げていた。目尻は溶けているし、口元も緩んでいる。別段幸せな事柄があったようには思えないのだが、もしかしたら彼女はスパンキング趣味があったのかもしれないとはたとDIOは気付く。
「何だその顔は」
「パパがいじわるするう」
「何を言っているんだ」
この唇は。DIOは指をマリエの唇に置く。ちゅうとマリエはそのDIOの冷たくて白い指を吸っては歯で甘噛みをしていた。何だ、こんな趣味があっただろうかとDIOは内心困惑もしたが、まんざらでもない。起きがけに餌付けをするかのようにスプーンを口に運ぶよりもずっと幼く背徳的な気持ちになるからだ。あれは食事のため、これは特に目的のない行動のため。目的のないことに費やされる行動にこそ何か言外の目的じみた快感を得がちである、という自覚が彼にはあった。山のように攫っては夜を愉しみ食料として積み重なってゆくバルコニーの彼女たちだったものこそ、その最たるモノであって、彼女らとの夜だなんて食事というよりかは栄養摂取、適度な運動という目的に沿ったものでしかない。一応DIOの中ではこの住まわせている腕の中のマリエだけは嗜好品という扱いなのだ。そこに愛着なりがあることは否定しないが。それこそ目的のない行動であって、楽しみであること以外に何もない。
「ホームシックということか?」
「ちあうよ」
DIOの指を口に含んだまま彼女は応える。強引に抜いて唾液の残ったままの濡れた手でもう一度マリエの尻を叩けば目も唇も閉じて、少しだけ色のついた嬌声があがる。DIOに取っては好ましい部類のもので、最後に聞いたのはいつだったか、そういえば週の初めだったように思う。もう少し彼女がまともな大人らしく振舞っていて、あの窓辺のソファで戯れに叩いた結果だったか。あの時は、窓に身を乗り出したマリエの体制が叩いてと言わんばかりだったのだ。いたずらをした子供のように膝の上に乗せて白い臀部に何度も手を張ってしまった。やめて、ゆるしてよお、だなんて何も悪いことをしていないのにもがく彼女が面白くて手が止まらなかったのだ。声に涙が滲むまでそれをして、その晩はすっかり涙目になってしまったマリエを抱いて寝た。それ以来、ああして寝起きからぴったりくっついてDIOの手を焼かすのだった。そういえばそんなことがきっかけだったのかもしれない。
「いたいのやだあ」
「フン、嫌いじゃあないだろう」
DIOはもう一度マリエの尻に手を振り下ろす。んっ、という声が再びマリエから漏れ、ゆるく開かれていた口も目も再び閉じるのだった。幼い表情から一瞬だけ大人に戻るのが何とも扇情的だ、とDIOは思うけれども恐らく自覚も何も彼女にはないだろう。
「やだってばあ」
「子供が何を言う」
「ねむたいもん」
お日様出てきちゃうよ、とマリエは再び眠さを体現したような目尻のとけた目でDIOの赤い目を見つめる。パパ、だなんてふざけた呼び方もするけれど、時間についての指摘は尤もだった。日が暮れてから起き、日が昇るのと同時に眠る我々としてはもう活動限界に近い。マリエは陽の中でも関係なく外にも出ていくけれどもDIOにはそれが出来ない。遮光カーテンのなかのこの部屋でじっと眠りに付くか、地下に行って文献をひたすら読むか、どちらかをするのが通常だった。
「なんとも腹立たしい」
「ご本をよみにいくならマリエもつれてってね」
マリエは相変わらず眠気の残る幼い表情で、幼い発言をした。それに応えるようにDIOはもう一度マリエの臀部に手を上げる。
「いい子でお留守番も出来ないのか」
「いっちゃやだあ」
「わがままを言う悪い子は縛り付けてでもしつけをしないといけないな」
DIOは体を起こしてむずかるマリエを抱き上げる。このままバルコニーにでも出して放置してやろうと思っていたのに、首に手を回されて顔の隣で鼻が鳴るのでなんともやりにくかった。代わりに目覚めの時にするようにDIOはマリエの背中に手を回せば、止められていた息が少しずつ解けるようにDIOの毛先を通って行くのに気付く。おうたを歌って、だなんてさらにふざけたリクエストもそれに紛れて毛先を跳ね上げたので、DIOは部屋の扉を開けながら記憶の底を浚っていた。廊下を通り、階段を一段一段降りる度に背中を叩いていたら、記憶の底にあったナーサリーライムが不意に口をついたので、歌詞のとおりに腕の中のマリエを揺らすと彼女は嬉しそうな笑い声を上げてその眠たげに高い体温をさらにDIOに密着させていた。なんて手のかかる子供だ。歌詞のとおりに落としてやろうかとすら思ったが、嬉しげなのは最初だけで、地下に着くや否や既に穏やかな寝息を立てていたのでDIOは落とす代わりにゆっくり書庫の椅子にマリエの身を置いて燭台を手にとった。この子供は大人になりすぎたのか、寝入りにおろしてもすぐには起きないらしい。早くこの遊びには飽きて大人に戻って欲しい気もしたが、如何せんいつもよりずっと穏やかなその寝顔も興味深かったので、DIOはどこまで彼女が退行してゆくのか観察することに決め込んだ。明日からはミルクポリッジもやめて哺乳瓶でも用意させてこちらが乗ってみたらどんな反応をするだろうか。却って醒めるかもしれないが、それはこちらで遊びはじめたほうが悪い。明日は部屋に帰らせずにそのまま赤子然と扱ってやろうと思いつつも、DIOの身辺に赤子などいた試しはなかった。何が子供で、何が赤子なのか、今夜のうちに読み込んでおいても支障はないだろうと思いDIOはやわらかく湿ったマリエの唇にもう一度指をつけた。眠るマリエはそれを食むことをしない。
20160104 chloe,as a X'mas request 2015
"夢主が赤ちゃんプレイに目覚めてDIOで遊び倒す感じ"