やさしくない手と生きる
カーテンを開けるのもだめ、アイスクリームを食べるのもだめ。入浴剤を入れるのもだめなら、マトンを食べるのもだめ。あとお酒もだめ。それから毎日ストレッチをして体を動かして、きちんと8時間寝ること。これがかろうじて生き残ることができた私に課せられた条件であって、右も左もわからないこの砂漠の町で私は至極真っ当に、規則正しく生活を送っていた。貴重だろう水を潤沢に使ってお風呂を使うことも許されたし、三食昼寝付き、観光もオッケー、バトラーサービス付きとはいえどことない不自由を感じることは確かだった。それでもパスポートも現金も持っていないし、言葉もわからないから領事館にも駆け込めない。そもそも外出にはお目付け役のようにバトラーがついているし、彼が全てのお金を払ってくれて、それから移動を握られているのだから逃げようという気にもなれなかった。尤も、着替えを買うように言われた際に下着まで用意されたことについては未だに許せていないのだが。しかもしっかりサイズが合っていて、まるで実戦用とでもいうような装飾性に富んだものだったことも理由である。
それからもう一つ契約があった。毎晩11時には私の血を差し出すこと。私はそのために健康的な生活を強いられている。
「いかがですか?」
「少々薄まったな」
もう少したんぱく質を取れ。そう言ってDIO様――私は館の全員がそう呼んでいるので倣っている――が首筋に指を立てて自分の血をある程度吸い終わったのを確認して問いかけた。薄まったと言われても、毎晩こうして抜かれているのだから薄まって当然だ。私はその結果毎晩すこしふらふらした頭で眠りについている。たんぱく質を取れ、ということは何かしら豆でも取れば良いのか。
「
マリエよ」
「はい」
「私が飲んだ分だけ水を飲め。行け」
行けの言葉に私は鈍痛のする頭を抱えて豪奢な部屋を出る。部屋の大きな窓は開け放たれていて、砂漠の乾いた風が部屋を冷やしていた。砂漠の夜は寒い。一度出た時に今までの印象と真逆で驚いてしまった。きっとベッドルームの水差しの中身も冷えているだろう。くらくらするから温かいほうがいいけれど、もうそんなのはどうでもよかった。はやく横になりたい。その気持ちだけで部屋に帰り着いて水差しからコップに水を移す。すこしはねてしまったけれどまあいい、明日拭けばいい……。私は飲み干したグラスをテーブルに置いてそのままベッドに潜って意識を手放した。シーツの冷たさは、血を吸ってゆく手の温度と似ている。
翌朝の目覚めはすこぶるよかった。毎朝の気怠い目覚めではなく、妙にすっきりとした目覚めだった。起きて水差しから水を飲めばやはりこれもさらさらと体を流れてゆく。机に散った昨日の水跡はすっかり乾いていたが、あの昨晩のDIO様の発言は的確な優しさに基づいたものであったことに今更気付いて、私は今更ながら今しがた寝たであろう人に感謝の祈りを切った。そうだ、今日はきちんとベイクドビーンズを食べよう。それからきちんとチキンも食べる。ストレッチもして外にも出よう。せめて生かされている間くらいは、彼の発言に従うほうが正しいはずに違いない。
20151230 chloe,as a X'mas request 2015
"DIO様で行動を止められる話"