宿題は期日までに
前に露伴にもじって歌った事柄でもあるのだが、
マリエの一週間は、糸と麻を買いに行くことではなくて、通勤中の朝にオーソンでジャンプとランチを買うことからはじまる。朝に買ったそれを読む時間なんてないから昼にそれを読むことになるのだけど、勿論一番最初に読むのは巻頭カラーの作品ではなくてピンクダークの少年だ。それから頭から順に読んで、感想をまとめながら昼を摂る。家から入れてきたコーヒーをこのタイミングで飲み切るので、給湯室で入れてから午後の業務を頑張る。業後はスーパーに寄って食材を買って、露伴の家に行ってから夕食を作り、一緒に夕食を摂ってから夜には帰って眠る。それが
のここ4年ばかり続いた平常な月曜日だった。今日は違う。朝オーソンでジャンプを買おうとしたら既になくて、二軒はしごした時点でなんとなく違和感があったのだ。違和感をいつもよりちょっとだけ高いサンドイッチを買うことで拭きとって
マリエは職場への道を急いだ。
朝の違和感だけならまだいい。サーモンの挟まったサンドイッチを齧りながらジャンプをめくっていたら、もう既に通勤中に読み終わっていたらしい同僚が不穏な一言を投げたのだ。往々にして展開の気になるところを先にネタバレをするのでいつも気をつけていたのだけれども、展開の急な連載はなかった。内容は知らずとも、ピンクダークの少年がまだまだ続くことを
マリエは知っていたし、他に連載の終わりそうなものもない。
「岸辺露伴でも結婚なんてするんだなァ」
「え?誰と?」
「いやそこまで知らないけど、作者のコメント欄にあったぜ」
マリエはその言葉に読みさしのジャンプをひっくり返して目次を辿る。サーモンサンドをテーブルに置いて上から3つめのピンクダークの目次を見れば、あっさり一行で終わっていた。”私事ですが、結婚しました。これからも頑張ります!”4年と半年付き合った私以外に結婚する人がいたのだろうか。びっくりして
マリエはコーヒーをいれなおすのも、サーモンサンドの続きを食べるのも、それから今週の感想を聞くのも忘れてしまってその一行を指で辿ることしかできなかった。左のピンクダークの少年のアイコンと右のふざけた露伴の自画像の間の一行。ふざけた露伴の顔。今日は行けない。
ぼんやり空に浮いた気持ちで午後は過ぎてしまった。付箋が二枚めくれたり、はんこがちょっとズレたり、些細なミスが相次いでしまったのでタンブラーに2度もコーヒーを注いだら、いつもよりカフェインを摂り過ぎたのか頭痛までした。今日は早く帰って自分のために料理をしよう。それでさっさと作業に没頭して寝てしまおう。
ベルサッサとしか形容できないくらいに早くオフィスを出て、それから一目散にスーパーに駆け込んだ。手当たり次第に野菜も肉も買っていく。なんでもいいから工程数の多くて手間のかかるご飯を作って冷凍しよう。たまねぎ、にんじん、セロリ、露伴の嫌いなものも買っていいんだ。さやえんどうに甘鯛、鯛なんてだめだ、お祝いじゃあないんだから。代わりに牛タンも買ってしまおう。下茹でからしてシチューでも作ってしまおう。露伴の嫌いな人参もたくさん入れるし、いつもより価格帯が上のワインも買っちゃうもんね。レジでの金額はいつもの数倍はしたけれど、もうなんでもいいと私はひらっと福沢諭吉を差し出した。
スーパーから最初の角、そこで曲がってまっすぐ郊外に出ると露伴の家だった。一瞬曲がりかけて気付いて元の道に戻る。その2つ先の角を左折した先が自分の家で、
マリエは三歩進んだ道を二歩で戻って、それから早足で勝手知ったる我が家に帰った。鍵を開けてぱつぱつのスーパーの袋を三和土において、ひと息ついたら泣きそうになった。この4年半って、なんだったんだろう。止まると虚しくなる気がして、靴を適当に脱いでキッチンまで走る。上着をテーブルに投げて袋から玉ねぎを出して、流しに投げ入れた。ほかの下茹での野菜も一緒に。ぜんぶじゃんじゃん洗ってざくざく切ってタンと一緒に鍋に放って、それから水をざばざば入れてコンロにかけた。根本の所は後で冷凍しちゃおう。
その間もできるだけたくさんの野菜を刻むことにした。人参、セロリ、できるだけたくさんの量を私はただひたすら刻む。昔読んだ本に、孤独に包まれたらねぎを刻むという下りがあったけれど、玉ねぎを刻んでも刻んでも泣けなかった。目につんときたけれど、流れた涙は全部汗みたいにさらさらで泣いている自覚なんてなかったのだ。できるだけこまかく刻んだそれを大きな鍋でひたすらバターと炒めて蒸らす。肉が下茹でされるまで仕上がったそれを一旦置いて、私はトマトと、実体としていれるための人参をシャトー剥きしはじめた。途中で何度か電話がかかっていたことに気付いたけれど、多分しょっちゅう電話を入れてくる実家の母親だろうと思って無視した。ぴかぴか緑に光る留守通知はもう慣れっこだ。いつも夜遅くに帰ってきて光っているのを見る。私は大抵それを寝る前に返して、電話越しの母にうん、元気だよだなんて他愛無い会話をして切るのだ。今日は返すつもりがない。元気だよだなんて言えないし、変な心配をかけるわけにもいかなかった。
なかなか下茹での終わらない牛タンのせいで、私はさらに玉ねぎを刻んで、バラで買ってきた牛肉をさらに細かく刻んでハンバーグまで作り始めてしまった。作業と口実が欲しかっただけだ。なかなか滑って面倒くさい牛肉を刻む作業も、それから全部をボウルにいれて、パンをちぎって牛乳もいれて、たまごも割って入れて練った。がりがり練る。指先が冷たいけれどそれでいい。ずっと人参も何もかも冷たいものを握っていたせいで、きっとおいしく練り上げられるだろう。練り上がってまとまったそれを掬っては手の中で投げ合って空気を抜いて、それからフライパンをまた新しく出して火にかけて焼いた。ソースはシチューを流用すればいいや、だなんて思いながら小さく作ったタネをおいては蒸し焼きにする。お弁当用と、今後の夕ごはんのために全部冷凍してしまおう。
ピンポン、と家のチャイムが鳴っても無視してしまった。いつも宅配は安全のために時間指定のものか、再配達の時間指定しか受け取らないし、回覧板ならドアに掛けておいてくれるだろう。なにより火を使っているから出る気にもなれなかった。ちょうど下茹でが終わったところでもあるし、とトングを手に
マリエは茹で上がった牛タンをまな板の上に出した。扱いやすいサイズに切り落として、それから皮を削ぐ。輪切りにしてそれをさっきまでハンバーグを作っていた火を掛けたフライパンに置いて焼いてしまう。その間に粗熱を取ったハンバーグを小分けにして、ラップの上で包むのを待たせておいた。冷え込んできた季節なのに、ずっと調理をしているから熱いと思ってベランダを開け放って冷めるのを待ちながら再び大きな鍋に火を入れた。ワインも開けてしまえ、とグラスにいっぱい、それからメジャーにも一杯。焼き上がったタンのフライパンにワインを入れてソースまで作ってしまった。最高だ。一個だけつまみ食いしたい気持ちだけれど、野菜がほしいからあとでにしよう。
焼き上がったタンを鍋に放ってそれからまたさらに炒める。さらに作りおいたスープも入れちゃうし――これはちょうど一昨日つくったやつだ、今度ポトフを作ろうと思ってスープストックを作っておいたんだ――さっきのソースも入れてしまう。さあルーも作っちゃおう。空いた鍋を洗って拭いて、それからまたバターを適当に入れて小麦粉をひたすら炒める。
マリエはこの作業が好きだった。なにより注意がいるし、ずっと手を動かしていればよかったからだ。今は立ち止まりたくなんてなかった。現実を思い出したくなんかなくて、馬鹿みたいにこんな幸福な料理をつくっているのだ。買ったワインは案外渋くて進まないし、これならいつものを買えばよかったとさえ思う。料理用と割り切ればいいのだけれど、今更ビールを開ける気にもなれなかったのだ。十分婚期のひとつ目の波なんて過ぎているのに、一言も出てこない結婚の話を何度ビールで飲み込んだだろう。母の電話にすぐに出ないのもそのせいだ。二言目には結婚の話を出される。もう28なのに、それから帰ってきたらと言ってくるのはセットだった。
マリエは普段言わせないように寝る直前に電話してすぐ切る。それなのに、きょうのこれだ。母にその言葉を言われたら泣いてしまう。もう泣いているのは秘密だけれど。
「馬鹿みたい」
少女漫画みたいに待ってたなんて馬鹿みたい。結婚したいだなんて言わないで通じるわけなかったし、さらにあの奇人のことだ。常人より通じるわけがない。したいなら早く言えばよかったし、する気がないなら早く諦めるべきだったんだ。気持ちが同じじゃないのに一緒にいるほうが残酷なことだ。
マリエは後悔をさらに涙に変えて、それからそれが焦げないように木べらでぺたぺたと炒めていた。切り替えるように煮えたスープを一玉ずついれて伸ばす。伸ばしてトマトとシャトー剥きのにんじんと一緒に鍋に戻して、勢い良く流しの水を出してそのままルーをつくっていたフライパンを洗った。つるっとルーの残りはとれて綺麗になってしまった。水を切ってそれを乾かして、手を拭いてスポンジを木べらに持ち替えて
マリエは鍋の中身をかき回す。焦げ付かないように慎重に。最初に執拗に細かく刻んで炒めていた野菜は今や姿を変えてペーストになって溶けていた。フードプロセッサーのないこの家では、こうして細かく刻むことが後々面倒でなくていいのだ。露伴の家には何故か調理家電がそろっていたからこんなことせずかけていたけれど。昔の勝手を思い出してまたセンチメンタルな気持ちになってしまって、
マリエはもう一度底をこそげ落とすみたいに力強くかき混ぜる。
もう大丈夫、とまとまってきた鍋をみてマッシュルームを放ったところで、そういえばパンも買ってないし、お米すら炊いてないことに
マリエははっと気づく。今から買いに行ってももうきっとサンジェルマンも開いていない。お米は合わない。じゃあマッシュポテトでもつくればいいのか、と思い立ち、
マリエは空いた鍋にもう一度水を張って火に掛けた。じゃがいもを数個手にとって流しに置く。じゃかじゃか洗って、それから包丁を手にとって先に芽を取ってしまう。それからくるくる皮を剥いて、水に晒してこれも賽の目に切ってしまう。柔らかめにゆでればいいんだ、ペーストにしたところでやめよう。そこからのばしたら重たくてとてもじゃないが食べられない気がする。そういえばこれを茶巾にしたものをよく露伴に作り置きしたっけ。私のポテトサラダは酢をいれる。そのマヨネーズを入れる前の状態が好きだ、と彼はつまみ食いをしてよく言ったものだ。ラップで小分けにした茶巾を昼に、不在の夜によく食べているという報告を多々受けては毎月のように作っていたのだ。癖で茹で上がりを待つ間に酢を出していて
はそれに気付く。だからといって今更入れない気もなくて、その酢を台に出したまま冷やしておいたハンバーグを包んで冷凍庫に放る。どうしてこんなに所作で彼を思い出すのだろう。私の4年半。
茹で上がって水を切ってボウルに入れたじゃがいもをつぶしながら酢をいれる。爽やかな匂いが立って最高だ。それに、そろそろシチューも良い。適当に潰していたフォークのままお皿にそれを取り分けて、それからサラダ用の野菜を流しに入れて数枚ちぎって洗う。これもまた適当にちぎって水を切って同じお皿に乗せてしまった。ひとりの豪勢なご飯もけっこう遅くなってしまった。まあ、いいか。私は深皿を出してシチューを盛ってパセリを散らし、それからトレイにサラダのお皿と一緒に乗せてしまう。ワインのなみなみ残ったグラスもカトラリーも一緒に乗せてキッチンを離れてリビングに向かう。さっき上着を放ったテーブルがあるから、あれも片付けなくては。明日でいいや。今日はテレビでも見ながらそのままソファで眠っちゃおう。お風呂も明日の朝入る。ドアを足で蹴って開けて、ぱちんと明かりをつけるとソファには至極不服そうな顔の岸辺露伴その人が座っていた。
「空腹だ」
「……なんでいるの」
「何で来ないんだ、って返しても良いわけ?」
二人がけのソファに座り込んだ露伴は足を組み直して私を見上げてきた。とりあえずは、と思ってテーブルにトレイを置けば目の前に露伴は立ちはだかる。
「言っとくけど、チャイムも鳴らしたし、そもそも合鍵を渡してきたのは
マリエだからな」
「チャイムが鳴ったのは覚えてるけど、それからいるの」
「そうだよ。悪いか?」
悪いよ。それを言い出せないまま
マリエはキッチンに帰ろうとする。その手を乱暴に引いて露伴はソファに連れ戻して座らせた。冷たい手だった。自分の手も冷たいのだけれども、こんなふうにされるのはいつぶりだっけ。
「僕の分は後でいい」
「露伴の分を取りに行くわけじゃないわ」
「逃げるのも後でいい」
露伴は冷たい手で冷たい
マリエの両手を取る。狭いソファだから、向かい合おうとすると膝があたってしまうけれど、その膝も随分と冷えていた。暖房も入っていないどころかドアのむこうのキッチンの窓は開いている。寒くて当然だ。いつもの変な服装にぴったりのコートは脱いで露伴の後ろの肘掛けに掛けられていた。
マリエが帰宅早々放った上着もその上にある。
「お前、何怒ってるんだよ」
「怒ってないよ」
「いつも月曜は決まってうちに来るだろ、今日は来なかったけど」
「別にそういう約束してるわけじゃないし」
「じゃあ何で来なかったんだよ、やたら手の込んだメシ作ってるしさ」
他のものも作ってただろ、と露伴はトレイを指して言った。僕の嫌いなものばっかだし、と人参に対する指摘も忘れていなかった。そうだ、あなたに食べさせる気はなかったから。
「新婚家庭におじゃまするほど、私は馬鹿じゃないから」
「ハァ?新婚家庭だって」
「ちゃんと読んだわ、今週のジャンプのコメント」
「あのさあ」
露伴が
マリエの手首を掴む力が強くなる。さらに逃げ出したい気持ちになって
マリエは目をキッチンの方向に逸らせたら、露伴の手は片方だけ外れて彼女の頬をさらう。駄目だ、こんなところ見られたら完全に不倫扱いになってしまう。犯罪になる前に逃げたほうが得策だ。
「そのせいで僕は今日の夜の予定が全部おじゃんになったんだよ」
「離すか帰るかしてよお」
「いいや駄目だね」
それにしてもひどい顔になってるな、なんて酷いことを露伴は言った。それは玉ねぎよりも何よりも残酷で、今まで流石にここまでのことを言われたことがないせいで鼻の奥がつんとして、じわじわ視界が歪んでいくのを
マリエは自覚していた。自覚していてもその原因を拭き取ることは手首を掴まれていて無理だし、かといって止めることもできなかったので表面張力と重力に任せるままそれは頬を伝って顎から自由落下をした。温かいそれに室温が冷え切っていたことを再確認しても、止みそうにはない。
「泣くなよ、僕が悪いみたいじゃないか」
「悪く、ない、って、思ってるの」
「ああそうだね。僕のどこが悪いんだ」
「ひどい」
顔を覆って声を上げて泣いてしまいたい。ベッドで突っ伏して泣くか、それかお風呂で泣いてしまいたい。明日も仕事があるのだから流石に明日まで引きずるわけないはいかないのだ。時計はもう月曜日を昨日と規定していたけれども、寝て、蒸しタオルを当てれば大丈夫だと思うのだ。
「僕は
マリエが泣くのが苦手だし、泣かせるつもりもなかったんだよ……無理にでも泣きやませるぞ」
乱暴に私の頬を掴んでいた露伴の指は私の頬と目をこする。爪のインクの匂いはよく知っているものでより悲しくなってきてしまう。優しくしないでほっといて欲しいと思ったけれど、今まで露伴の前で泣いた経験なんて両手ほどもないから知らなくて当然だし、毎度毎度要求が違っていただろうからどうして欲しいだなんて知っているだろうわけがなかった。
「ほっといてよお」
「駄目だ」
「優しくしないで」
じゃあ優しくしてやるよ。露伴は私の手首を掴んでいた手を離して二の腕を掴んできて、それから噛むみたいにキスをしてきた。これじゃあどうしようもない。こうされるのが一番好きだったのを、なんでこの時ばかりは知っていて再現するのだろう。
マリエはこれ以上優しくされたくないと肩を押しかけたら逆にかわされて距離が近くなってしまった。鼻を噛まれるのも好きだった。何でこういう時ばかりは覚えているのだろう。
「露伴なんて、きらい」
「それは困る」
近くにある顔が困惑した顔で私の目を見ている。逃げられない顔をしていた。頬と二の腕を掴んでいた手が離れて、露伴は半身を捻ってコートを探る。逃げるなら今しかなかったけれど、立てずに私はそのまま座っていた。逃げたらいけない気がしていたけれど、その根拠は泣いて若干酸欠気味の頭ではうまく考えられずにいた。露伴は大きな手の中に探しものを隠して再び
マリエに向き直る。
「結構考えて、トニオさんの店にも予約入れてたし、日付も変わったし、本当に全部予定が総崩れなんだけど」
最初の時みたいに手首を強い力で握って露伴はその手を上げる。さっきはふたりの間に錨みたいに降ろされていたのに、こんどは少し乱暴だけど恭しく掲げられる。
「結婚しよう、嫌とは言わせない」
手首の手は指先へ移って、隠されていた手の内側から指輪が出てきて不躾に私の指に通そうとする。言葉も返せずまた再び頬に涙が伝ったことを目の前の露伴は困惑した顔で見ていたので、私はうんと言おうとして、つっかえて、鼻音だけで返事をしてしまったけれど露伴はそれも困惑した顔でそうだな、と返してくるのだった。
「このために、見てなさそうだけどコメント欄をああしたんだ」
「うん」
「読んでるとは思ってなかった」
「読んでるよ」
「……もう、しないから」
露伴の手は伸ばされて私の両目の涙を拭う。視線を落として
マリエは自分の左手をみたけれど、すこしゆるい真新しい指輪は大きな石で
マリエの顔を見返すばかりだった。これを買い求めた時の露伴の姿を見たかった。12時間前の真昼から降り積もった不安が自分の中で音を立てて溶けていくようで、さっきのより密度が軽くてふわふわ溢れていく涙を抑えきれないまま
マリエは目の前の露伴の首に抱きついて声を立てて泣くことしかできなかった。困ったなァと言いながらも露伴はその
マリエの背を抱いて、シャツが濡れるのも厭わずに、本来するはずだったプロポーズの前菜とデザートを囁くのだった。その確認のひとつひとつに同意をする度に露伴は
マリエの頭を撫でる。それにしても、コメント欄の結婚しました、というのは尚早すぎると文句を言えば、露伴は再びコートから半分だけ記入済みの薄紙を出してテーブルに放った。勿論証人欄も彼の編集の名前と、それからよく来る背の低い青年の名前で埋まっていて、
マリエはついそれをみて笑ってしまう。もう勝手に新しい苗字も、本籍地も見知った住所に決められていて、相変わらず露伴は勝手だなと思いながらも少し嬉しくて涙も途切れてしまった。きっとあのコメントを提出した数週間前からずっと考えていたのだろう。その間中顔色も変えず、タイミングも失っていた岸辺青年がなんとも言えず愛おしい気持ちになって
マリエは露伴の唇にちゅっと軽く口付けを返した。
20151230 chloe,as a X'mas request 2015
"露伴でプロポーズ"