あらしのまにまに

 カーテンの向こうのガラス窓に雨が叩きつけられる音が響く。風がごうごうと音を立て、窓の外の木の葉を盛大に揺らすのも意識にどんどん刷り込まれて異常な視界の非日常感をさらに煽っていた。
 御影は執務机の上で組み敷かれている彼女の腕をずっと掴んでいたが、自分の絶頂が近いのを悟るとその手を離し、浮いた白い腰を掴んで自分の腰を打ち付ける速度を上げた。あ、だとか、いや、にほど近い悲鳴みたいな彼女の声が自分の腕の下から絶えずしていて、それに付随するように粘度の高い水音がぴちゃぴちゃと高い音を立てている。彼女の身体は紅潮が広がり、自分が身体を打ち付ける度に遅れて胸の膨らみがふるふると衝撃の余波で揺れる。もっと余裕があれば揺れる胸を掴んでも、乳首を摘んでも可愛らしい反応が得られたのだろうが、御影とてもう余裕がない。繋がっている腰からあふれた蜜が御影の腿と机を汚せどもただその動きを止められることはできなかった。
 せんせえ、といつまで経っても彼女は呼び方を改めずに御影のことを呼ぶ。その呼び方と、ここが校内であること、それらがひどく罪悪感を香らせる。頑なに名前を呼んではくれない真面目ちゃんのせいで、一人滑稽に御影は彼女の名前を呼び続け――終いに白濁とした劣情を全て彼女の中に吐き出した。

***

 記録的な規模の台風が来るらしい、と最初に聞いたのは一昨日だったか。今まではばたき市に上陸したこともないような規模の台風が来るので、部活等は中止、生徒は自宅待機をさせること。そう聞いたのもその予報と同日で、御影は早々に台風対策に支柱の強化に着手する。夏休み中の園芸部員たちも代わるがわる登校しては通常の世話に追加してその作業に加わる。もう収穫ができそうなものは先に収穫を、そうでなければ固定と防風ネットの設置を、プランターのものは前日に生物室へ運び込もう。そういった方針を部長に伝えれば、あとは人数の確保をして作業に集まるのだから顧問としては心安い。そもそも彼らも作業に慣れていたから、慌ただしくとも台風の前日18時には既に準備万端の状態で生徒を帰宅させることができた。
 とはいえ、御影はこうして出勤していつもの夏休みと同様に理科準備室で作業をしながら過ごしているのだった。自分の家に居ても手持ち無沙汰だし、休みのうちに進めておきたい仕事もないわけではない。三学年分の秋以降の授業準備もあれば、学校外で依頼を受けている植物の世話に関連する報告書、それから顧問を受け持っている部活の監査報告だとか、意識を向ければ無限に仕事は発生するのだ。隣接する生物室にプランターはすでに運び込まれていたし、もうこうなってしまえば土が乾くまでやれることなどない。
 紙仕事を進めていた最中、一段と風が強まったタイミングで台風の進路が気になって御影は一瞬テレビを点ける。はばたき市に近づいている台風…号は勢力を強めながら北上しはばたき市沖…kmまで接近してきています。前情報とほぼほぼ同じ情報のまま、雨合羽のアナウンサーが状況を伝えていた。羽ヶ崎の方の海岸にいるそのアナウンサーの雨合羽は今にも飛びそうで、わざわざこんな日に海に近づくことなどないだろう、と思いながら御影はテレビを消す。
 自分も通勤時に雨合羽を着込んでもすっかり作業着を濡らしてしまって替えの置き作業着に着替えている。こんな日でないと許されそうもない格好での通勤だったが、今日ばかりは見られたとしても咎められることはないだろう。着てきた雨合羽と作業着は生物室に干している。雨足が弱まれば中庭の様子を見るつもりだったからゴアテックスの雨合羽で来たけれど、通勤の間すらこの雨風には抵抗できるはずもなかった。

「せ、せんせえ〜」

 『例外』の音がしたのは15時を周って少ししたくらいだった。ノックの音がして身構えた瞬間、ドアの向こうからよく見知った真面目ちゃんの声がする。台風一過になるまで部活は休み、と周知したはずで、それは昨日園芸部員の前でも念押ししたはずだった。来るはずもない人間の来訪に、自分の返事の声が変に大きくなった自覚はある。御影は準備室の引き戸を開け、声の主を迎え入れればそこには雨合羽などもう無力な状態でずぶ濡れになった少女が立っていた。髪から制服から、全てから雨が滴っている。濡れていないのは履き替えた上履きくらいだろうというのは誰の目にも明らかで、夏服が濡れて身体に張り付いているのが痛々しかった。

「どうした。今日は自宅待機だって昨日確認しただろ」
「昨日、一年生に任せたあと、確認できてないところがあって、気になっちゃって」

 御影は彼女を部屋の中に招き入れながら、室内を見回して乾燥したタオルがないか探す。ちょうどいくつか洗い替えに置いておいたものがあったはずだ、と棚を開けて目的の物を取り出してずぶ濡れの制服を纏った少女に手渡し、身体を拭くよう促す。彼女は開いたタオルをためらいなく開いて髪を拭き始める。

「そんなの、電話してくれれば……」
「先生もお家にいると思ったので……でも来たら、先生のバイクあったから」
「ともかく、お前はここに居て身体を拭いてくれ。風邪でも引かれちゃたまんないよ。俺が見てくるからさ」

 彼女に指定の花壇の位置を言わせ、古タオルを含めてどんと机の上に乾いたタオルを出して御影は準備室を出る。使ってくれればいいが、それはそれとして着替えさせるにも自分の作業着の替えもない。確認したらすぐに帰すべきだ、と思いながら御影は生物室に干している自分の雨合羽を羽織り、その下に置いていた長靴に履き替えた。
 彼女の言った、確かに夏前の定期試験後に加入した一年生たちが作業していた花壇の防風ネットはいくつか紐がほどけていた。ただ全体的に上級生が作業していた支柱がしっかりと張り巡らされているから、通常であればあまり心配しなくてもいいだろう。御影は解けているネットの紐を結び直し、他にも記憶の中にある経験の浅い生徒が担当していた部分に目を向ける。特に問題はなさそうだった。これだけ風が強ければ、ここまでやってもどうにかなるときはなってしまうのに、気になってしまったのはやはり彼女が真面目過ぎるからだろう。結果だけ告げて、どうにもならないことも伝えて早く帰宅するよう促そう。雨合羽の合わせから滲みこむ雨を避けるように小走りで御影は校舎に戻る。

 再度雨具を干して理科準備室のドアを開ければ、きゃっと悲鳴が聞こえて御影は反射的に視線を棚の方に向けた。しかしそれも具合悪く、棚のガラスは部屋の状態を映し出していて、御影は彼女が自分の机の前に立っていることを確認した。靴下が脱げていて、シャツの前が空いているのすら見えて御影は目を瞑る。いくら休みの日に彼女が露出の高い服装をしているからって、それは『着ている』から許容できるのであって、この状態は一般的には許されない状況だ。

「あの、ノックしてください」
「すまんすまん!一旦出るな」

 御影は目を瞑ったまま、掴んでいたドアを頼りに踵を返し、廊下に出て後ろ手にドアを閉め直す。ガラス越しに見えた水色の下着と白い足が瞼に浮かぶのは、もう仕方がない。悲鳴のような声も合わさってか徒に下半身に血が回るのを自覚しながら御影は窓に映る自分の顔を見つめ直す。彼女は、生徒。一緒に出かけてどれだけ好意を示されていても、自分がどれだけ執着していても、大事な真面目ちゃんに過ぎないのだ。そう自分自身に言い聞かせているうちに背後のドアの向こうから、大丈夫です、と声がした。
 再び理科準備室の引き戸に手を掛け、ドアを開けば今度こそ彼女はシャツを……シャツを脱いで御影の椅子の上に座っているのだった。裸足でスカートを着たまま、腕に脱いだシャツとその下に着ていたであろうキャミソールを掛けて、下着のままで。

「おい、服……」
「先生まって」

 最初のトラブルから安心しきって準備室のなかに足を踏み入れていたし、呼んだ生徒が服を着ていないなんてことはないはずだ、との思い込みから御影は一瞬反応が遅れてしまう。もう一度目を瞑ってドアの方を向いて、もう一度廊下に出ればいいはずなのにどれだけ周ったら真後ろのドアを向けるかわからず出遅れる。後ろを向けば向いたで背中にしっとりと柔らかい感触、それから自分の腹部に白い手が周っていた。まだすこし湿度の残る彼女の頭が、自分の背中にくっついている。そしてもちろん感触的には下着越しに胸もくっついていて、御影の作業着を掴む手は見知った白い指が並んでいた。

「ちょ……こんなところ、誰かに見られたらどうするんだ」
「それでもいいです」
「良かねえよ、離れるんだ」
「いやです」

 ぎゅう、と力の込められた腕のせいで背中に胸がより押し付けられるのを感じる。誰も校内に居ないはずとはいえ、この状況を万が一にも誰かに見られたらまずい、との思いが御影の手をドアに伸ばす。引き戸を引き、開けられていたドアを締めたものの、これはこれでまずいのではないだろうかと冷静な思考も同時に脳裏を過る。少なくとも自分には悪影響で、今まで隠れ見ていた肢体が自分にこうして絡まっている事実を確認するだけで俄に下半身が熱を持つのがわかる。これ以上密着するのはやめてくれ、と天を仰ぎながら御影は自分に回された手に自分の手を重ね、彼女の名前を呼ぶ。

「教師じゃなくとも、俺捕まっちまうよ」
「誰もいませんよ、こんな日に」
「どうしちまったんだよ、真面目ちゃん」
「どうかしちゃったんです」

 誰も居ないんだから、好きにしちゃっていいのに。そう作業着越しに真面目ちゃんの不真面目な声がした。手を重ねれば、雨でつめたく冷えた手は無抵抗で自分の手を割り込ませる。いとも簡単にはがれた手を御影は掴んで、自分の手との大きさの違いを確かめながら自分の身体から腕をはがす。同時に自分のズボンが外から見ても分かる程度には膨らんでいることに気づき――彼女の腕が当たらないように細心の注意を払いながら、腕を降ろさせた。腕を外せば、密着度合いはいくらかマシになって、それでも背中から離れようとしない彼女を引き剥がすには向き合うほかあるまい、と御影は彼女が作業着の背中を掴む前にくるりと向き直り、床に片膝をつく。

「こら。おふざけはもう終わりだ」

 御影が見上げる形で半分脱げた制服のままの少女の表情を伺えば、彼女は真っ赤な顔で、離れたばかりの腕で胸を隠しながら御影の目を真っ直ぐ見つめていた。御影は視線の行き先に迷いつつも、彼女が見つめてくる目に応えるように向かい直す。

「せんせい、これでも……これでもどきどきしないんですか」
「そういうことじゃないだろ」
「わたしはふざけてなんかないのに……」

 わたしが子供だからだめなんですか。なにも早くなんてないのに。そう呟く彼女の目にはどんどん涙が溢れてきて、御影は困惑しながら次の手を考えてしまう。本来であれば、泣かせるつもりなんてなかったのだから――人目さえ許せば――抱きしめてやるのが正義だろう。でもここは職場で、彼女は半裸。タオルを被せてやって、服もなにかしら自分のものでいいから着せてやるのが本当はいいのだろう。来たときに既にびしょびしょだったブラウスは扇風機で乾かしてやるか、体育着があれば着せて帰すのが良いだろう。  そう思いながらも膝立ちになった御影の視界のほとんどが彼女の身体で埋められているから、さっきまで彼女が持っていたブラウスだとか、残りのタオルがどうなっているかだなんて確認ができない。なまじ視線が合ってしまっているせいで、外せば彼女の裸をみることになり、視線なんて外せやしない。

「な、真面目ちゃん。服を着なさい」
「わかりました」

 わかりました――そう真面目ちゃんは答えたはずだった。次の瞬間に彼女は胸から手を外し、腰のスカートのホックに手を掛け、指先で外してそのままファスナーも下ろしてしまう。御影がつい腕が外れたことで視線を反らした瞬間だったので、ばさ、と湿った音を立てながら床に落ちた布の存在を御影は想像もできず、つい足元を見て確認してしまう。よく見知ったスカートが、濡れて色を濃くした状態で放射線状に襞を広げている。円の中心には裸足の彼女の足があって、見上げれば、上と揃いの下着を付けた少女――ついそれが上下きちんと合わせてあることを確認してしまった――がやはり御影を見つめていた。

「……これで」
「……おい」
「あ、先生……やっとわかってくれました?」

 大きくなってる。そう視線をずらさずに、彼女は片足をスカートの中心から持ち上げて御影のズボンの中心を爪先でなぞる。やめろ、と反射的に声を上げながらも御影は彼女にも、脱ぎ捨てられた服にも触れずに居た。作業着のズボンの固い布越しに彼女の爪先がひんやりと圧を加えてくるのが嫌というほどわかる。雨風の音がいやに耳に響いて、今この瞬間の御影の集中は、その質感にほとんど向けられていることが自覚できる。

「わたし、ずうーっと、先生のこと、好きだって伝えてたのに」

 ずうーっと、内ももにいちど爪先が向けられて、そこから中心にいくように縫い目を辿る彼女の爪先。

「くっついてもかわされちゃうし」

 膨らんだ部分を往復するように動く彼女の爪先にすべての神経が向いている。御影は彼女からずっと視線を外せないまま、ただ視線から下半身を隠すように上半身を屈めることしかできなかった。

「もうどうなってもいいなって、ずっと伝えていたつもりなんです。でもずっと触ってもくれないし」

 触ってもくれないし。同調して不意に爪先が自分から離れて御影は声が出そうになる。内心、もっと触ってほしい、と思っている自分に嫌気が差す。大事な存在だから、大切にしたいと家の前で手を取って誓ったのは一体何だったのか、自分に問うべき時だった。

「わたし、魅力がないのかなって思ったんですけど、でもなんか……その、そうじゃないみたいで、よかったです」

 ふふ、と彼女が笑い、それがきっかけで不意にすべてが衝動に変わってしまった。彼女は屈んでスカートに手を伸ばす。御影はその手を掴んで自分の方に引き寄せる。バランスを失った下着姿の彼女は御影の腕の中によろめいて、御影の肩のあたりに湿ったブラジャーが当たる感触がした。そのまま御影は彼女を担いでしまい、自分の執務机のタオルの山の上に転がす。出ていく前に書類をすべてしまっておいてよかった、とこの時だけは過去の自分に感謝した。御影は机の上の彼女に一つだけ、訓戒を落とす。

「二度目だからな。大人をからかうんじゃ、ない」

 一度目は、以前のデートの帰りに告げた警告だった。あまりにもぺたぺたと触り続ける彼女に不安と劣情を覚えて男性一般にこんなことをするんじゃないと、わかりやすく例えて伝えたつもりだった。不安そうな目の彼女を、御影はタオルに押し付けてブラジャーの金具を外す。さらに雨に濡れた作業着のボタン類も外した。きゃ、だとか、自分を呼ぶ声がタオル越しに聞こえてくるのはわかっていたけれど、どうにも止めることなどできなくて、御影はその場に自分の衣服を脱ぎ捨て、自分の肌を直に彼女の背中に滑らせていく。
 白い項に唇を寄せれば、せんせえ、だなんて扇状的な声が自分を呼び誘っていて、御影はその産毛の光る肌に唇を寄せる。彼女の名前を譫言のように呟きながら、圧し潰すかのように彼女の背中に頬を寄せ、手を滑らせてはその滑らかさを堪能していた。

「煽るなって、教えたのにわからないのは、よくねえなあ」

 ばたばたと机の外で動く彼女の足を揃えさせ、自分の身体で固定させながら、御影は背骨に沿ってキスを落としていく。雨のせいですっかり冷たくしっとりとしている彼女の背中に、御影の粘膜が吸い付いては離れるのが好いのか、唇が離れる度に彼女は可愛らしい声を上げるのだった。背中に触れている御影はその声が肌越しに伝わるのが面白くて堪らない。腰まで到達して、御影は少しだけこのまま下着を取り去ってしまうか、どうか逡巡する。とはいえもう自分の我慢も限界に近く――御影は彼女の下着に手もかけず、自分の下着を下ろすと閉じられた彼女の足の間に自身の、既に硬く熱を帯びている陰茎を滑り込ませるのだった。
 既に情けないほど先走りの量は十分で、熱と違和感に気がついた彼女が声をあげ状況を確認している。ね、なんですか、これって。そう言われても、説明するのは幾らか難しい。かろうじて残った理性が挿入はいけない、と示していたし、当たり前にこの空間に避妊具はない。そこから導かれたのが今の状態だったが、おそらく未経験の彼女に伝えるには些か難しすぎる。彼女の白い内腿に挟まれながら扱かれる自身への刺激に身を委ねながら、御影は激しく彼女の足へ腰を打ち付けるのだった。勢い余ってすり抜けては下着が影を作る臀部の割れ目に押しつけてはその狭間を滑りするするとした下着の布の感触と彼女の肌の作る弾力を味わう。そしてまた太腿の間へはちきれんばかりの陰茎をねじこんではその狭さが快くて思わず声が出る。
 互いの皮膚がぶつかる乾いた音が規則的に響き、それがいつもひとりで処理をするときとはまるで間違って心地よく響く。可能であればなめらかな背中を、丸く膨らんだ臀部を、すべて全身で味わいたかったが、御影にそもそもそこまでの余裕もなければ、そうすることで必要以上に彼女を驚かせたくはなかった。
 困惑気味な彼女の呼ぶ声が――せんせえ、熱い――僅かにスパイスになりながら、御影は彼女の足の間へどっと精を吐く。いきなり熱と実態を持った液体が足の間に広がって驚いたのか、彼女は手を足元に伸ばしながら、その正体を確かめようとしていた。

「安心しろよ、いれちゃない」
「……そんな」

 御影はデスクの上のウエットティッシュに手を伸ばし、数枚引き出して彼女の足と、自分自身を拭く。広がりを抑えるように彼女の足を少しだけ開かせては抑え、広範囲に渡って汚していることを確認しながらわざと塗り拡げるかのように拭き広げる。挿入こそしなかったが、もうこれでは――もうこれでは何もかもおしまいだ、と思いながら、おしまいだとしても自分の気の使い方の場違い感を反省しつつ拭き終わったペーパーを足元のくず籠に投げ捨てた。

「わたし、先生と……先生とする気だったのに」
「からかうなって、何度言えば理解る」
「欲しいんです――先生のわからずや」

 机に乗せられたまま、彼女はそう言ってうつ伏せの状態から仰向けに起き上がろうとする。欲しいんです、だなんてストレートな物言いに、一度熱を吐いたばかりの下半身は如実に再び反応を示していた。小娘が言うじゃないか、と思わないことはなくはない。それよりも恋い焦がれた相手が、こんなに真正面から自分を挑発していることのほうがひどく扇情的で、御影の内奥にちくちくと快感の矢が刺さる。わからずや、だなんて吐き捨てるように言いながらも、姿勢が彼女を吐息混じりにしたことも特筆すべき点だった。
 身をよじろうと、それか机から降りようとする足を御影は抱え、机の上に上げてしまえば彼女はたちまちに机の上で手をついて起き上がる。タオルの山にぺたんと座った彼女は首だけをこちら側に向けて御影の表情を伺っている。自分の執務机の上で、うつ伏せになっていたせいでか少し潤んだ瞳が自分を見つめているのにどうして黙っていられようか?みかげせんせ、と自分を呼ぶ唇を奪えば小さい手が自分の肩にかかるのがわかる。冷えた手が自分の身体につけられて、なお自分の身体が火照っているのが自覚できる。
 湿度で満ちた室内に自分の立てている水音がさらに響いていやに生々しい。タオルの山でこっちを向こうとしながら御影に抵抗する手を絡め取りながら、御影はゆっくり自分の方に彼女を引き寄せる。水音に混じって漏れ出る吐息がさっきまでの強気な発言と打って変わってしおらしく響き、それだけでもう頭がどうにかなりそうだった。しおらしい吐息に反して舌は自分に応えるように絡まり、掴み直した手は御影の指をぎゅっと捕捉して離さない。
 御影はそんな手を自分の方へ手繰り寄せながら彼女の指を離させ、手を彼女の手から手首へ、肘へ、そして背中へと手を回す。背骨のあるべき一列を指で辿ればびくりと彼女が反応するのがわかる。鼻だけではなく口からも漏れ出た嬌声に満足して御影はようやく唇を離し、彼女の表情を伺った。

「せんせ……」
「どうなっても知らねえかんな」

 黒目がちな目が目を瞑っていたせいで、いつもより濡れて自分を見つめていた。うっすら上気した頬と、それに同調して首から下の肌も若干赤みが差している。自分の言葉にこくり、と小さくうなずいた彼女を見ると自分が許された気がして、そのまま御影はもう一度彼女の唇に吸い付きながら、彼女の未発達で硬さの残る胸に手を広げる。自分の手の中に収まりきってしまうやわらかなふくらみに指を沈めれば、さっきまでとは少し違った声が舌の先から溢れてきて面白い。せっかく起き上がってきたのに残念だろうが、かわいらしいくぐもった声に耐えられず再び彼女をタオルの山に押し倒せばつんと尖った胸がふたつ、天井を仰いでは御影の手に再び覆われて潰されては形を変える。

「……っ……いた……みかげせんせ、いたい……」
「おう」

 濃い桜色の彼女の乳首が、ぷっくりと存在を主張し始めて御影は指でそっとそれを挟む。途端にこうして抗議の声が上がるわけだが――御影はそれに生返事をしながら触れていないほうの頂点に顔を近づけ、いままで彼女の舌を弄んでいたようにそれを口に含んだ。

「や……せんせ、変な感じ……」

 口の中の彼女の乳首はなよなよとしていながら、舌に鋭敏に反応してその芯の主張を強くする。片手に触れているもう逆側も同様で、御影の指の間でもう片方と同調しているかのように、触れるか触れないかの状態でねだるように膨らんでいた。その反応も、漏れ出る声もすべてが御影を誘う。彼女の空いた手が御影の髪を一房撫で、同時に迎えた快感の波のせいで指にそれを掴むのすらいじらしい。自分の身体の下で彼女の身体が快感の波に揺られて細かに捩られていて、腰が動いているのも声以上に強く御影を誘う。下着のレースのざらざらとした肌触りが御影の肌を擦る度に、御影はその下の真意を問いたくなる。是か、非か、このまま進んでよいか、退却できようもないだろうが、このまま終わりにするか。

「せ、せんせっ……やめ……やめてっ……んん」

 やめるつもりなんて毛頭ない。紅潮の広がる身体に手を広げながら、御影は依然ふくらんで誘う彼女の乳首を弄び続ける。時折強く刺激を与えれば、すぐにそれが背筋と腰と、それから吐息に反映されるのだからやめられるはずもない。御影の手は胸からゆっくり曲線を辿って自分の肌を擦るレースに指を掛ける。ずらして滑り込ませた指はぬかるみのなかに滑り落ち、谷に誘い込むように御影の指はひとつ、ふたつと増えてはその浅瀬を手繰る。指がちいさな芽にぶつかると彼女は明確に声を上げ、御影の指にフィードバックを返す。
 彼女の声が切羽詰って高くなって、振れた腰がタオルの山を崩していくつかを床に落とす。声が途切れて荒い吐息に変わった頃合いを見て、顔を上げて彼女の表情を伺えば真っ赤な顔をして唇から息を漏らしていた。薄っすらと額に張り付いた幾筋かの前髪が蛍光灯を照り返して妙にきらきらと光っていた。その筋に指を掛けて、他の前髪と一緒に撫でつければ彼女はやっと目を見開いて――せんせ、と安楽な声を濡れた唇から紡ぐ。

「ここまでにしよう」
「……やです」
「お前だって、ちょっと落ち着いただろ」
「先生は、違うでしょう?」

 彼女は満足そうな表情を浮かべながら、膝で御影の足をゆっくりと擦りつける。彼女の言うことは尤もだ――現に自分の下半身は趨勢を取り戻していた――一方で倫理も頭を擡げて自分の選択を見ている。ここまで来てなお、もう何も変わらないのではないかと思いつつも、この部屋には準備のかけらもなかった。毛布の一枚も無ければ、当然避妊具もない。幕引きならばここまでであるべきだ、と思いながら彼女の身体から自分の身を起こせば、じっとりと自分の下半身が身を擡げているのがありありと分かり弁明のしようもない。

「絶対に先生がしてくれないと思って」
「おう、しないからな」
「買ってきました」

 タオルの山に崩れたままの彼女は、目線だけを自分に向けながらそう告げる。鞄に、駅前のドラッグストアで買ったコンドームがあります。サイズはわからないけれど。手を持ち上げて指差したのは準備室の中ほどで、目線で辿ればそこには濡れたスカートが落ちている。その隣には彼女がこの部屋に来たときから置かれたままの鞄があった。

「ここまでしても、してはくれないんですか」
「……そうだ」
「じゃあこのまんま、しましょっか」

 彼女は両手を下着に掛け、腰を浮かして脱ごうとする。その企ては僅かに腰が持ち上がるだけで潰えてしまって、腰が上がりません、と彼女はため息をつく。御影から見れば下着はもう既に濡れて色を変えているのが分かり、先程指に感じた、自分を迎えれたあたたかなぬかるみがその奥にあるのが思い返される。せんせ、起こしてください、と少しだけ下げられた下着から手を離した彼女は自分に手を伸ばし助けを乞う。だが、御影はそれに応えることはしなかった。

「鞄のどこに入ってる」
「え、開けたらすぐ、紙袋が」
「開けるぞ」

 御影は彼女の伸ばした腕を取ることなく、部屋の中央の鞄に手をかける。どうぞ、という彼女の声で鞄を開ければ、鞄の中にはペンケースと参考書、ポーチ、タオルに――それから無漂白の紙袋が四角い形を保ったまま入っていた。紙袋に手を伸ばし、セロハンテープの封を切れば見知った、そして遠慮がちに用途を抽象化した箱が出てきて御影はその封をも性急に巻き開ける。薄いビニールの封の向こうの蓋を開けて一回分を手に取り、箱を棚に置きつつ個包装の封を切って彼女の視線を避けながら身につける。見えないのは不興だったようで文句の声が背中から上がるけれど、振り返ればそんな声も止んでしまった。包装の残骸をくず籠に放りながら御影は執務机の彼女に向かい合う。

「いいんだな」
「……はい」

 顔を手で覆いながら彼女は返事をする。あれほど好戦的であったのに、鳴りを潜めてしまった様子に一瞬驚きつつも御影は下着に指をかけ、少しだけ下げられたそれを膝まで引き下ろしてしまう。下着にぬかるみの跡が糸を引いていてきらきら光っていた。御影は彼女の膝を持ち上げて下着を取り去り、何とはなしに自分の脱ぎ捨てた下着の上に落とす。ちいさな薔薇の咲いた布地が自分の下着の山に落ちているのは不思議な光景だった。
 タオルの山ごと自分の方に彼女の身を引き寄せながら、御影は彼女の腕を開かせようと下腹部にキスをする。くすぐったいとばかりに声が上がるが、その手は顔にあるまま動かない。そのまま膝を抱え込み足を開かせながら口づけの位置を少しずつ下げていけばふふ、ふふふ、と笑い声が起きて皮膚にさざめきが起きる。顔を上げてみれば、彼女は指の間から目を出して御影を見上げていた。

「ちょっとやっぱり怖いです」
「やめるか?」
「……やめません」

 力が抜けたように彼女の手は顔からはら、と落ちる。あんなに強がっていたのに今更怖いだなんて、相手はまだ17歳と少しだというのを思い知らされた瞬間でもあった。御影は落ちた片手を掴んで自分の側に寄せる。せめてもの安堵のためだった。彼女の指は御影の指を力なく掴み、迷いと期待の混じった目で自分を見つめていた。
 御影は指であふれた蜜を掬い、しとどに濡れながら自分が足を開かせたせいであらわになっている秘部に指を這わせながら彼女の名前を呼ぶ。入り口に先ほどよりもずっと硬度を増して反り返る陰茎を宛てがいつつも、いれてしまわずに彼女の名前を呼べばなんですか?と穏やかな返事が返ってきて御影は安堵する。当初よりも緊張していそうだが、無理というわけではないだろう。

「なあ、今まで好きだった課外授業って、どこだった」
「それって、ふたりでのだけ――ッあ」

 回答は眉根に寄せられた皺と、吐息でかき消えてしまった。そうだ、二人でいったやつ、と囁きながら御影はゆっくりと腰を進める。強い力で押し返されてしまいそうな中で、御影は空いた手を開かせた膝におき、閉じようとする足を止めていた。浅くしゃくりあげるような吐息が漏れ、もっと安堵してくれればいいのに、と御影はそれ以上進まず、握りあった手に力を込める。彼女の瞳は逡巡するように御影の双眸を見つめていて、朱が差している頬は快感によるものか、羞恥によるものか、痛みによるものかもわからない。
 彼女が瞬きをして、息を深く吸う度に少しずつ距離を詰める。詰めた分だけまた漏れ出てしまう吐息に、その分一気に進めてもよいのかもしれないと思って奥まで身を深く落とす。御影の下の彼女からひときわ大きな嬌声が上がって――背筋がきゅうと反り快感に身を耐えていた。そわ、と皮膚の粟立ちが見えそれと同調してなかも今以上に締め付けが強くなる。明確に奥の底まで到達したと思えば、彼女の口からはまた違ったトーンの声が転び出、瞳が潤々と涙を湛えているのが見えた。

「せん……せ」
「痛いか?」
「いたくは……っないです」

 これでぜんぶですか、と涙をこぼしながら彼女は問う。それに対して応えながら、片手を顔に近づけ流れた涙を拭えば無自覚そうな目が戸惑ったように御影を見上げている。痛くないのであれば、良いのだが。そう思いながらも徐々に状況に慣れてきた彼女の肉体は御影を受け入れ、追い出すような真似はしない。緊張がほぐれてきてか、握ったままの片手の力も一時よりよっぽど弱まっていて、今ならこのまま続きに移っても良さそうな気配すらあった。

「わたし、やっぱり……やっぱり先生が好き」
「俺もだよ」
「お出かけも、どこでも好きです」

 彼女の緊張と集中をそらすためにした質問をきちんと覚えていて――きっと回答を考えていた彼女はやっぱり真面目ちゃんだと御影は思う。そんな真面目ちゃんが、不真面目に、こうして自分を誘惑して今や想像の外にある状態にまで来てしまった。何度か自分の中で夢想し、ありえないと切り捨てていた選択肢の一つが、こうして彼女の在学中に手を出すことで、きっと彼女の将来も曇れば自分の失職も免れない、そんな結末をシミュレートしては自制の念を強めていた。彼女には触れないし、彼女の手も握らない。結果がこうして彼女と執務机でのセックスか。
 せんせ、と不意に御影の肌を彼女の手が触れる。外の風の音はどんどん勢いを増していて、意識がそちらに向けば向くほど自責と欲のないまぜになった混濁した意識の影が深まる気がする。そんな最中の彼女の温かな指と問いかけは福音に近くて、御影は俄に彼女に赦されているかのような気持ちになり、す……と自身を彼女の中から引き出していく。
 失われていく質量に対して、困惑するような目と声が自分の下から上がり、再びそれを元いたように勢いをつけて最奥に戻せば粘着質な水音と、再び自分と彼女の肌がぶつかって起きる乾いた音、それから一緒に彼女から際立ってかわいい嬌声が漏れる。どうしようもない俺を許してくれ、さらには欲を満たすことも。御影は自分に触れていた彼女の指が、御影の手首に回されているのをいいことにそのまま彼女のなかで勢いを増す。

「……せ、……またッ……また変な感じ……ッ……や、へんになっちゃ」

 変になるならなってしまえ、そう思いながら御影とて返事をする余裕もあるわけがない。加速する水音のなかで、今日はもう既に一度解放したというのに切実な射精感が背筋をゾクゾクと揺らしせり上がってくるのを感じる。今まで掴んでいた彼女の手から手を離し、彼女の白く、浮いてきた腰を掴んで御影は腰を打ち付ける速度を増す。彼女が苦しげに声を上げ、御影をなかでぎゅうと絞りきった直後御影も余裕なく彼女の中に――薄い隔たりのなかにではあるが――欲を吐いて彼女の身体に崩れ込む。お互いに薄く汗をかいていて、頬が彼女の胸に当たるのを感じながら、汗のせいでお互いの肌がぴったりと吸い付いてしまうのにひどく安堵を覚えた。

***

「雨、勢いおちませんね」
「台風だからな。弱まったら、帰るぞ」
「はあい」

 御影は彼女に自分の作業着を着せ、隅から探しだしたパイプ椅子に座らせハーブティーを飲ませていた。濡れていた衣服はできる範囲で水気を払い、ハンガーにかけて吊るし、扇風機を当てて乾くように祈っている。嵐のような出来事のあとで、彼女は来たときの切羽詰まった感情を手放して少しとろんとした目でカップと、それから御影の顔を交互に見ては笑う。ちょっと放心しているのだろうが、いま何を話しかけていいかわからずに下着姿のまま御影は自分の椅子に座り様子を伺うことしかできない。

「せんせ、次の日曜日、お出かけしたいです」

 だめですか?と笑う彼女に否定の言葉など出てくるはずもなかった。洗いざらしの大きな作業着の袖を何回もまくり、その手にはほぼ彼女専用となったガラスのティーカップ。構成要素だけで言えば、部活の合間に何度も見た光景だった。……尤も、今は全く状況が違うが、普段の平日かのような問いかけと構成要素に頭がくらくらする。非日常のはずだったが、そういえば日常の延長線上に今があるのだ。そしてこうして明確に好意を示されているのも、同様に真実だった。

「おう、どこに行きたい?」
「……先生のお家」

 一度だって誘い合わせたことのない目的地に御影は面食らいながら、それなら……と待ち合わせの場所が口をついて言葉になってしまう。次は晴れだといいですね、と笑う彼女の顔を見ることができないまま、御影はティーカップの中身を飲み干して湯を継ぎ足しに席を立つことしかできなかった。

「次は、ベッドでしましょうね」

20211221 chloe first post in pixiv and reprint in 20220601.