木枯らし焼けた

そんなもんやめちまえよ、と通りすがったスクアーロはマリエの紫煙に気付いて口を挟む。そういえばこいつが煙草を吸う現場に遭遇したのはいつぶりだったか、と考えを巡らせてもスクアーロは思い出せずにいた。
「わざわざ離れて吸ってるのに物好きねえ」
「偶然だ、偶然」
確かにここはあまりスクアーロも通った覚えのない場所だった。何故通ったのだったか、それはなんとなく外から大回りで直にキッチンに行って酒でも調達しようと思っていたからなのだが。
「ただでさえ喫煙者は肩身が狭いのよ」
「じゃあやめたらいいじゃねえか」
「どっかのバカが何かを壊さなきゃ止めれるわ」
城壁に寄りかかってマリエはふうと息を吐く。携帯灰皿に灰を少し落として、火を消すでもなくその手は空に保たれている。
「スクアーロ、あなたの行動って結構他のことに波及するのよ」
「俺ァマリエのモノなんて壊した覚えねえぞ」
「馬鹿は最後まで話を聞かない」
吸うと煙草の灰のなかが赤く燃えることをスクアーロはこの時はじめて間近で見た気がする。あの上司は偉そうに葉巻を吸いこそするが、それの所作は結構違う。がしゃんと先を切るし、ただぼんやり吸っていることが多いので大抵その作業をはじめるとスクアーロは席を立つからだった。別に嫌煙家というわけではないのだが、あまりそういう席にいた覚えがないのだ。
「あなたが壊した窓枠が私の部屋の軒先を割って、お気に入りの下着がワンセットだめになったわ」
「そりゃ……」
「あなたも脱がせたことあったでしょ、ピンクの全部レースのやつ」
何ユーロしたか知ってるの?とマリエは俄に苛立ちを隠さずにさらに煙を炊く。細く彼女の唇から漏れる煙はいつだったかの彼女とのベッドを思い出させてなんとも言えない。数年前、日本から帰ってきてすこし経った頃だったか。そういえばあの時も既に吸っていた覚えがあった。あの時も煙草の味がした。吸っているところをその時は見たことがなかったけれど、それで喫煙者であることを知ったのだ。
「俺が買ってやるよ、新しいやつ」
「サイズ覚えてないでしょう」
「いいや覚えてんぞ」
だから吸うのやめろって。片手でスクアーロはマリエが灰を携帯灰皿に落としたところを没収して蓋をして火を消す。まだ長いのに、とマリエは非難の声を上げるが次を出すこともしないでそれに従うだけだった。
「指が」
「何?」
スクアーロは没収した携帯灰皿をポケットに突っ込んで虚空でありもしない煙草を持つ手を掴む。その指先に、長い髪をかきあげもせずキスを落としてさらにその言葉の先を衝く。
「吸うと指の味が変だから嫌なんだよ」
「……やめるわ」
「せめて新しい下着を買うまではな」
そうしてそのままスクアーロはマリエの手を取って室内へと足を進める。酒は後だ、どちらの部屋に帰ればいい、とスクアーロは思っていたけれど、惨状を見せてあげるわと引いていたはずの手は彼女の部屋へと先を導いた。

20160102 chloe,as a X'mas request 2015
"リボーンのスクアーロで"