不安の概念
左遷されちゃった。
珍しく
が早い時間に家に戻るとそこにはすで
に足立がいて、あはは、と笑いながらそう言ったのだった。
「え、どうしたの、ねえ」
玄関に座っていることにまずびっくりして、
はしどろもどろになりながらそう言った。足立は足立でさっきと同様に笑いながら
の鞄を預かって床に置く。
「左遷されたの。
、この言葉知らない?そうかあ、だって今は外資だもんねえ。左遷も何も、君たちにはなかったっけ」
おいで、とそれに続いて足立は両手を広げる。おいでも何も、足立が玄関に座っていては家の中に入れはしない。とりあえずこの人を立たせなくてはいけないと思い
はその両手を掴んだが、引っ張る前に引っ張られてしまう。
「これで結婚は白紙になっちゃうね。お父さんにもご挨拶に上がれやしない」
でも無職じゃないんだけどね。
を抱きしめながら足立はそう囁いた。
「まず僕の実家に行くのが難しくなっちゃった。勘当されるかもしれないけど、まあそれはいいんだ」
「透」
「まあ、居ない子が結婚したいだなんて言っても別に構わないかもね」
カンケーないし。そう言って足立はさらにきつく
を抱く。この前の誕生日にあげたシャツだ。厚めの生地が、
の頬に擦れて痛い。足立の腕も相俟って息苦しかった。そんな中で
に唯一出来たのはおとなしく足立に抱かれ、抱き返すことだけだった。
「どう思う?
。エリートじゃない僕はもういらない子かな」
「そんなことないでしょう」
「じゃあこんな僕とでも結婚してくれるって?」
「うん」
「まあね、したって意味ないよ。同居できないじゃないか」
どこに異動になったの、と聞けばイナバ署、とだけ返ってきた。
には聞き覚えのない地名だった。都道府県名だけ足立が付け足す。
前、彼が研修で行ったところよりも俄然近いではないか、と思ったら、それを見越してか足立が自嘲的に付け足す。
「ここからじゃあどうやっても通えないよ」
だからもう僕はここには居られない。あさってまでに荷物をまとめるよ。そう言いながら足立は
を抱く手を緩める。
「
は今の仕事を辞めて僕について来てはくれないだろ?」
「急には、無理」
「ほら」
仕方ないのは知ってるよ、そう言って
を離して足立は自嘲的に笑った。
「透」
「さよならだ、でも
のことは嫌いじゃないんだよ」