街の灯


一度僕は君に質問をしたことがあった。どうしてそういつも笑っているんだい?と。
そんな答えのないような質問にもかかわらず君はすぐに「幸せだから?」とやっぱり笑って言ったね。
君が何でそうすぐに幸せな気分になれるのか僕にはわからない。
そう言ったらやっぱり君は簡単そうにそれに対して言葉を吐くんだ。笑っていたらおのずと幸せになれます。幸せなら自然と笑えます、ってね。
…稲羽にきてすぐに君に会えたらよかったのに。
そしたら今だって、多分何にも思わずマリエの手を握っていられた。
マリエの言うように笑って、幸せな気分になって、笑えていたかもしれない。
「…足立さん?どうかしました」
「あ…ごめん。なんでもないよ」
夜中、ジュネスの閉店後の後僕らはこうして家路につく。
僕は買い物、マリエはバイトの帰り。マリエの家はジュネスと足立のアパートのちょうど間にある。いつからこんなことをしていたかは、もう忘れた。
「クリスマスはケーキ焼いてもって行きますね」
「僕はイチゴのケーキがいいな。楽しみにしてるよ」
そんな風に、毒にも薬にもならないことを話しながら歩くのが週に3回の習慣だった。
ずいぶんともう霧が深い。彼女は決してこの霧を恐れるようなことは言わなかったけれど、寒いからなのか霧のせいか、マリエは前よりも僕の近くを歩くようになった気がする。
でも、そんなことさえ僕には不吉で仕方がなかった。
いつもいつも、いいことがあったらその次は絶望だ。せっかく勉強して、いい大学に入って、就職したのに、このザマだ。人生こんなことの繰り返しにしか過ぎない。
今回なら、堂島さんのところの甥っ子が真実を掴むかもしれないということがこの一年に対する絶望だろう。
もしそのとき、僕はマリエのことを考えられるだろうか。無理だろう。僕のことだ。マリエのことなんて、多分自分のことばかりで考えられないんだろう。
よくわかってるさ。自分のことくらい。でもマリエはきっと僕のことを最後まで信じてくれているんだろう。そして最後に真実がわかったときはこの人を泣かせてしまうんだろう。そう思うととても申し訳なくて不甲斐なかった。

急に、手を引っ張ってキスをしてみた。
マリエは心底びっくりしたような、でも幸せそうな顔で僕を見ていた。大丈夫。泣かせやしない。そして、どんな結末が来たとしても君の事も忘れない。