幸福は水溶性

たまの休みなんだからねェ、ともったいぶる足立を連れて河川敷に出る。夜の河川敷には誰も人がいなくて、都心でありがちな深夜ランナーもいなければ釣りをする少年もいない。岬のように突き出たブロックにマリエはしゃがんで足立を大きな声で呼んだ。
「足立さん、魚いる!」
「なんだよそんなはしゃいじゃって」
そんなつめたいことを言っていても、足立はなんだかんだしゃがみこんで水面を覗くマリエの横に来てくれるし、マフラーの端が水面に落ちないように後ろで結う。
「夏だったっけなあ、遺留品探しで僕もここの川浚いしたんだよ」
「えーなんか意外」
「日本の警察の捜査力、すごいでしょう」
あの魚なに?とマリエは川面を指差す。確かに川浚いした時にも魚がいたように思うけれど、そんな種類までは詳しくない。鈍く光る魚の背を見ながらわかんないなぁ、と足立はそれに返し、徐ろに石を拾って投げ込む。残念ながら一回も跳ねずにそれは川底に沈んでいくが、そこまで深さのある川でもないからきちんと見ていれば識別できただろう。
「あっ、いっちゃった」
「魚だって夜寝るんだからじっとみてるほうが悪いだろ」
「起こすほうが悪いと思うんだけど」
「いいの、いいの」
魚が居なくなって尚立とうとしないマリエの肩を持ちながら足立は寒いとばかりに川から離れることを提案する。マリエはまーだ、と間延びした返事をして未だに川を見ていた。子供みたいだ。
「足立さんとお出かけするのひっさしぶり」
「そうかなあ、最近だって沖奈に一緒に買い物行っただろ」
「それって帰りはお仕事行っちゃったじゃん」
最初から最後まで一緒にお出かけするの久しぶりすぎて嬉しいな〜とマリエは呑気に座ったまま首だけを上に上げて足立の顔をみてくる。こうして見上げられるのも確かに久しぶりだ。最近はめっきり家にこないし、夏のように街中で遭遇するなんて機会もあまりなかったからだ。
「足立さんちょっと顎がとがった」
「なんだよそれ」
「やつれた?」
さあ、どうだろう。足立はマリエの肩から手を外して、それからもう一度地面の石を拾って構える。私もやる、とマリエも石を拾って、せーので投げると片方だけが数度跳ね、片方だけはそのままぽちゃんと川底に落ちていった。足立さん、へたくそ〜と笑うマリエの声にむきになってもう一度投げてもまた跳ねずに落ちてしまうので、もう帰ろうよ、だなんて適当さで足立は足元のマリエを急かした。
20160101 chloe,as a X'mas request 2015
"足立さんで幸せなもの"