北へ 前


 ネットニュースの見出しをつい、口に出して読み上げてしまった。

「付き合っていないのに牡蠣小屋に男女で行く、ねえ」
「はあ?牡蠣小屋?こないだのやつ?」

 斜向かいのソファに寝そべる同僚――この間品川のオイスターバーに一緒に行った――は全く自分と同じ感想を持ったような返事をする。わかる、別に牡蠣を食べに行くのに交際状況など関係ない気がする。もうひとりの同僚は自分の向かいの椅子に座ったまま、苛立った様子で眉間の皺を伸ばしていた。

「貴方がたが想像しているのは、オイスターバーだと思いますが」
「ねえ、何が違うの」
「浪費家のお二人に伝えさせていただくと、品川にも丸の内にもありません。銘柄別で牡蠣が出てくることも、氷の上に乗せられて出されることも無ければ、シャンパンも出てきませんよ」
「僕が飲むのはジンジャーエールだよ、七海」

 こないだ家入氏も呼んで、仕事帰りに行ったばかりだ。というか冬はしょっちゅう五条に付き合って都内のそれらに行く。確かにコリドーのそれはやらしい雰囲気だったから、付き合っていない……だなんて見出しにも一定の理解ができていたというのに。まあ、あんなところ付き合っている状態で行くところでもないけれど。

「狭いオイスターバーのことではなく、本当に生産地の海辺にある小屋状の飲食店です」
「へえ、じゃあ採れたてなわけ」
「まあそうなりますね。大体焼き牡蠣が食べ放題です。もちろんセルフで焼いていただきますが」
「えー、面白そう」
「ずるっとレモン絞って飲むのが美味しいんじゃん、焼きとか僕はいいかな」

 会社員時代に行った?と問うても、七海から返事は得られなかった。手元の端末に牡蠣小屋、と入力して検索すれば幾つも近県のものが出てくる。……もちろんそれは今度の出張先にもあって、時間があれば寄るのも悪くなさそうだった。無駄に肥えた舌と記憶から、この県はどの銘柄があったっけ?と産地と味を思い出すのにも余念がない。

「生のほうがお好きな五条さんは、別にどうでもいいですが、焼きが好きなのであればあなたと行くのはやぶさかではありませんね」
「え、ほんとに?七海いるならお酒飲めるじゃん」
「分量は考えてください……あなた、いつも持て余して私に押し付けるでしょう」

 ここの日程とか、どうです? 七海は端末の中のカレンダーを開いて自分にスケジュールを見せてくる。確かに、お互い別の仕事とはいえ上がる時間が昼過ぎとかなり都合をつけやすい日だった。おまけに翌日は珍しくお互いに休みときた。仕事のあとに遠出をするとしても全然苦ではないスケジュールだ。

「えー、やだぁデート?公私混同?」
「業務後です。公私混同ではない」
「私そこでオッケー、翌々日はまた出張だから経費精算めんどいな、一旦東京帰ろ」

 自分の端末を開いて、スケジュールを作成する。七海と牡蠣小屋 場所:未定。詳細はお願いしてもいい?と問えば目だけで了承が得られた。サングラス越しに見える視線について、かれこれ数年やり取りするようになったけれど、間違えたことはない。五条のそれとちがってある程度視認できるのもあるし、明らかにわかるように示唆してくれるからでもあるのだが。
 無限に騒ぎそうな五条を尻目に席を立つ。じゃあねえ、とローテーブルに放っていた紙挟みを手に席を立てば、さっきしまった端末がポケットの中で震えていた。部屋から出て画面を確認すればそれは七海からのメッセージで、行き先と思わしきスポットのシェアだった。それじゃあ、15時に東京駅で待ち合わせね、と返事を打てばもっと詳細な場所の指定が返ってきて、明らかに七海にすべて任せたほうが得策なのがわかる。仕事からそのまま行けるように、朝荷物も一緒に持っていこう、それから八重洲口に降ろしてもらえるように補助監督の人にお願いしよう。あそこ、いろいろ入構規制があるから神田か有楽町で下ろしてもらったほうが楽かも、だなんて思いを馳せる。待ち遠しいな、とメッセージを打って、かわいいキャラクターのスタンプを送ればもう返事も返してもらえなかった。……詳細はこの後、仕事の後の夜中に一つ一つのメッセージの間で決まってゆくことになる。仕事の後に夕飯を目指して出掛けて、翌日に水族館と、可能であれば城跡を見て帰る。水族館は私の趣味で、出張先にあるとつい寄ってしまう。お土産はうるさそうな同僚がよく食べているやつを買えば問題ないだろう。

***

 仕事のあとそのまま合流すれば、軽装の七海が壁にももたれかからずに待っていた。冬用のグレーのチェスターコート、似合うなあ、と思いながら歩みを進めれば、お見通し、とでも言いたげに視線がこちらに向く。オフの日の七海はいつものサングラスの代わりに眼鏡に切り替えていた。平日の昼過ぎにこんなモデルみたいな人がここに立ってると、撮影みたいだよな。でも数年前はここらへんで働いていたんだっけ。

「お待たせしました」
「……寒くないですか」
「マフラーは鞄にしまってるから、大丈夫!」

 はい、と手渡されたのは四角いきっぷだった。もともと行き先は聞いていたし、手配もするというから任せていたけれど、きちんと指定席で取られた新幹線の切符に思わず笑ってしまう。

「なんですか、数字でも気になりますか」
「いや、最近カードでばっかり乗ってたから、新幹線の切符もらうの久しぶりで」

 そう言えばあなた最近西向きばっかりですね、そう七海は勝手に足を改札に進めながら話を続ける。思ったより派手な色のシャツを着るよなあ、と七海のコートから出た襟を見上げながらそれについて行かざるを得ない。お茶は既に持っていたし、これから夕飯に牡蠣を食べるからいいのだけれど、寄り道をする思想ってあんまりなさそうだよなあ、と七海の性格を思う。
 年齢としては同期に当たるが、同じ校舎で過ごしたことはないので七海の性格はよくわかっていない。彼が『復帰』してから知り合ったくらいだし、お互いに単独での仕事がメインな上、特性がマッチしているわけでもないので一緒に業務遂行をしたことなど数度しかない。飲みに行ったことは何度もあるが、自発的に誘ったというよりかは彼の先輩筋に当たる面々が呼び出した結果が多い。それでもこの間のように雑談程度はするのだけれど。
 生真面目そうだ、と思った割に、あまり急いで構内を移動する羽目にはならなかった。足の長さが違いすぎる男性と一緒に行動すると、大抵早足になるか、置いていかれるかなので最近あまりヒールの高いものを履けた試しがない。一人の仕事に割り切ればヒールのあるお気に入りのブーツで行くこともあるが、それ以外は大抵、ヒールを下げたものを履くのがここ数年の傾向だった。五条は長い足を気ままに移動するから追いつけないし――一次会のあと二次会に行くまでにどれだけ無駄に動いているかわかったもんじゃない――学生と一緒の仕事の時には置いていかれるだなんて最悪なので。
 今日は急いでいないということは、つまるところ目の前の七海はこちらに気を遣っているのだろう、ということが伺える。極めつけに、新幹線に乗り込んで窓側に自分を追いやるときまで気を遣われつつ、コートと鞄まで棚の上にあげられては文句のつけようもない。優しそうな事は言わないのにな、と思いながら切符を挟んだ文庫本と端末を窓の横に置き、飲みさしのボトルのお茶を開ければ、自分のコートを畳んで棚上に上げた七海が真横に座ったタイミングだった。

「何から何まで、ありがとう」
「いえ、お構いなく」

 とはいえ、二人がけの席で体格のよい七海と並ぶと普段の出張よりは窮屈感を感じることは否めない。一人の出張で三人がけの窓側を予約するタイプなので余計に思いがちだ――ちなみに名古屋までのときは通路側がベターだと思っている――思わずそんなことを言えば誰だって機嫌を損ねることは明らかなので口には出せないが、真横に男性が座るのが久々でつい観察してしまった。それに、自分のものよりずっと長い足が横にたたまれているし――なんですか、という問いかけで視線はつい足元から七海の目元に移る。

「や、足、長いなーって思って」
「あなたからしたらそうでしょうね」
「ちょっと羨ましい」

 ふ、と鼻で笑われて視線を外す。普段職場で見るよりかは幾らかリラックスしたような表情だった。リラックスしていたのは本当のようで、七海はそれからそれでは少し仮眠しますが、起こしたい時はどうぞ、だなんて言って腕を組み、自分と逆側、通路側に少し頭を傾けて眠り始めてしまった。お互いに降りる地点がわかっているから出来る所業ではあると思いながら文庫本を開けば、小さい寝息がすぐに聞こえてきて、その寝付きの良さに少し別の羨ましさも覚えてしまう。こうした形で信頼を示せるのは、なかなか自分にはできない。
 読みかけでいくらも進められていないミステリ小説を頭から読み始めて、数駅通過したあたりで七海の頭が自分の方にごろり、と傾けられる。目を向ければ組まれた腕も幾らか緩んでいて、固そうなシャツが肘で皺をつくっているのも見えた。整った硬質そうな顔が自分の斜め上でこちらを向いていて、揃った睫毛がレンズの奥でゆるく光を反射している。きれいだ、と思って思わず触りたくなった自分の感情がよくわからない。いつも不機嫌そうな同僚がリラックスしていて、なおかつきれいな顔を自分に向けているとどうも懐いてきた猫のような気持ちになって触りたくなったのだと思う。
 何より自分より上の階級の人間だ、今日の任務もずっと負担が大きいのだろうな、と思いながらページをめくる。規則正しい寝息が斜め上からするようになって、あまりの規則性に少しばかり眠気に誘われる心地もなくはない。ちょっときりのいいところまで、と思いながら行を目で辿っても、寝息と、それから不意に七海からするいい匂いにつられて少しずつ文字が飛んでいくのがわかる。今日は彼も仕事後のはずなのに、一度家に戻ったんだろうか、武器も持ってないしなあ。一方で自分はシャワーも浴びずに仕事から直行してしまったことを僅かに反省しながら、後で化粧直しをする時に香水を吹き直そう、と眠い頭で思い返す。化粧直し、なあ、と思いながら切符を今のページに挟み直し――窓枠に置いて目を伏せて、聞こえてくる寝息に同調するように息を吸い直せば、羊を数える間もなく意識を手放す事となる。

***

 結論から言えば、化粧直しのタイミングは来なかった。待ち合わせの直前に、移動の車内で少し直したきりでまた新幹線で眠ってしまったし、起きたら起きたであと10分で到着、という時間軸だった。いつの間にか七海は席からはみ出していて、自分の手に七海の腕が重なっていたし、頭は七海の枕になっていた。不意に覚醒して身じろいだ結果七海を起こす羽目になり、起きがけに気づいた手の接触に気まずくなって化粧直しに行こうかな、だなんて言えるはずもなかった。今香水を吹き直して、口紅も塗り直したらまるでデートみたいじゃないか。そう思いながら謝る七海を尻目に冷えたお茶で口を潤す。

「すみません、すっかり寄りかかっていました」
「私も寝てしまっていたので、別に。仕事明けですもんね」
「いえ……まあ、わざとだったんですが……」

 見上げても、いつものように冗談です、と冗談も言いそうにない顔は言わなかった。これが余計に化粧直しを遠ざける結果になる。く、と七海は指を組んで腕を伸ばし――そろそろ降りる支度をしましょうか、だなんて自分に提案をする。返せる言葉もなく、七海が降ろすコートと鞄を受け取り、鞄に諸々をしまい込んでマフラーを取り出し、立ち上がってコートに袖を通すほかなかった。七海も通路に出てコートに袖を通していて、自分の視線に気付いて少し眉を上げる。

「どうかしましたか?」
「あ、いえ、やっぱりそのコート、似合うなって思って」
「まあこういう時には着ますね」

 暖かいので。こういう時って寒いところに行く時のことかしら。意味を図りかねながら、スカートを整え直して席に座る。どうかしましたか、ではない。その前に言った発言についての真意がつかめない――そう思いながら窓の外を見れば、暮れかけた陽のせいで窓にはこちらを見る七海が反射していた。視線が合ってなお、外そうとはしない。
 新幹線の加速度が緩まって、市街地に近づいた、そう思ったら到着はすぐだった。どこか懐かしいようなメロディのあとに駅名がアナウンスされて、促されながら席を立つ。コートのせいで眠りながら安堵を覚えた匂いはしない。ドアが開くまでに、目の前に立っている七海を見上げたら、ずいぶん長く寝たせいか、髪が抑えられて癖がついていてちょっとかわいいな、と思ってしまった。手を伸ばしかけて、振り向かれたので金色の髪には触れずに指を引っ込める。

「足元、気をつけて」
「はい」

 子供じゃないのに、と思いながら伸ばされた手を取ってしまう。クイ、と思ったよりも力強く引かれた手にびっくりしつつ、子供のような気持ちで受け入れれば意外にもその手はエスカレーターに乗るまで離されなかった。

「切符、無くしていませんね」
「ちゃんとあります」
「よろしい」

 エスカレーターを降りたらもう手は差し出されなかった。なあんだ、と思いながら新幹線のなかで文庫本から抜いた切符をポケットから出し、七海の隣の改札を抜ける。明日の帰り際にお土産を買わないとうるさい同僚のために調達を忘れないようにしないとな、と思いながら、事前に調べた目的地へ乗り換えようと路線案内を探す。こっちです、と再び七海は自分の手を掴み――さっきより随分カジュアルに握られていた――進行方向を随分分かりやすく教えてくれていた。

「すみません」
「あ、や、ありがとう……」
「レンタカーを予約しているので、乗り換えませんよ」

 私はもう一度、同じ言葉を繰り返す羽目になる。最初に待ち合わせを提案して、直された時からそうだったが目的地は分かっていても、何も準備をしていない。貴方は当日くるだけでいいので、だなんて言う七海の言うことをそのまま信じていた。もちろん私だって、取ってこの間も更新した免許があるけれど、出かけて運転する、だなんて仕事でもなければ想像できもしなかった。あまりにも致せり尽くせりな状況に、七海が他に出かける人がいるとすれば――想像すると何故か胸がキュッと痛む――ちょっと羨ましいな、と思う。私にだけこの気持ちが向いていればいいのに、と思うほどには誤解を生むタイプのようだ。

「嫌でしたか?」
「いや、じゃないよ。でも車だったら、七海お酒飲めないじゃない。だから電車かなって思ってただけ」
「……私はそこまで日本酒は飲みませんので。あなたは好きに飲んでください」

 お酒は好きだ。でもそこまで飲めない。七海がいるからこそ、今日は色々飲みたかったのに……と思いながらも、先に検討していたお店のラインナップ――日本酒がメインに据えられている――を思い出す。そもそもボトル制ではないのだから、一合ばかり楽しく飲めればいいかしら、だなんて思いながらふらふらと七海に手を掴まれたまま着いていく。
 外気は東京よりもよっぽど冷たくて、ひゅうと吹く風は湿度を湛えながらも明確に温度を肌から奪う。そういえば、七海の手は暖かいなと思って少しだけ握り返せば、力に気付いた七海は少しだけ足を止めてこっちを窺っていた。他意のないことを確認し――恥ずかしいことに、手があったかくて大きいなって思いました、だなんて小学生のような申し開きをした――諸々の手続きのために手が離されるまで、ろくに顔を見上げることができなかった。結局、コートを脱がされて後部座席に放るまでうまく会話を繋げられずにいて、車内という密室でやっと口を開いたのだった。

「……よろしくね、運転ありがとう」
「私が誘いましたので、お気になさらず」

 それから目的地まで、ラジオばかりに喋らせるのも、と思ったのもあれば、久々に助手席に乗って移動していることだとか――仕事の時は大抵、後ろの席だし、資料を読んだら着くまで眠っている――見慣れない街並みに興奮して色々自分の話をしてしまった。
 家のこと、学生時代のこと、京都校の思い出、割と遠くへの出張が多いせいで行った先々での思い出、おいしかった銘菓のこと、それからなぜ東京に拠点を動かしたのかも話したし、わかりやすく休みの日の過ごし方の話までしてしまった。
 代わりに得られたのは七海の日々のことと、会社員の時の話と、それからよく選んだサンドイッチの話だった。私の学生時代に好きだったパン屋は七海のかねがね行きたいパン屋リストに入っているらしいが、場所が場所なだけにあまり行き先が回ってこないとも。
 私は私で、地の利があると思われてか、何の因果か、月に一度は出張で行くのだが。変わってあげたい、と思ったが、ひとつ上の階級で、かつ仕事のスタイルが全く違う人に薦められる話でもない、と思って代わりに出てきたのは別の事柄だった。

「じゃあ、今度お使いして帰りましょうか」
「……本当は自分で選びたいですが、あなたのセンスを見たくはありますね」

 可能であれば……と例示された好みを携帯のメモに書き留める。学生時代は菓子パンの方が好きだったなあ、だなんて郷愁にちょっとかられて、好きだったカヌレも一緒に買って帰ってあげよう、だなんて気持ちが起きる。それにしても、お腹がすいた。冷えたお茶を飲んで空にしてしまいながら、目的地まであともう少しだとナビの告げる音を聞く。こうして何にもならない話を七海とするのは想像よりもずっと心地がよくて、もう少しばかりこうしていたいなあだなんて気持ちが胸に渦巻いていた。相手がどうかはわからないけれど、少なくとも少し笑って――いっつも職場では機嫌が悪そうな顔ばかり見るのに!――気楽そうに話す七海を見る限りは、この時間は嫌ではなさそうだと思う。

***

 海辺の、小屋。まさしくいつだか職場で七海が言った表現は正しく、海辺に建てられた簡易なビニールハウスとも小屋ともつかない建物が目的地だった。煙が出るので、とブラウスの上のセーターを脱がされ、マフラーの代わりに洗いざらしのタオルを首に巻かれ、準備を七海に整えられながら車を後にする。寒い、と口にすれば今だけですよ、だなんて答えが返ってきて――温度差を気にしてかメガネも外されていた――透明なビニールのドアをくぐれば、彼の言わんとすることはよく分かった。
 セミオープンエアの小屋内部は焚かれている熱源と、焼かれている海産物のせいでむわっと暑く、そしてセーターを脱がされた理由もよくわかる。つるつるした大きな上着を渡され、促されて着ながら店員の説明を聞く。七海はこちらに向き直って先刻首に巻いてきたタオルを上着の首元に合わせて巻き直してきた。なんでも汁が飛ぶので、とのことだった。
 ごろごろと頼んだ牡蠣が殻付きのまま二人の前の網に並べられる。幾らかの注意と、それから続いて出される薬味に面食らいながら海の匂いをすう、と吸い込む。隣に座った七海は炭酸水をオーダーしていて、わたしも、ともう一つそれを追加してから乾杯にした。……それは乾杯が日本酒は何だか違うな、と思ったからに違いなく、次に一合だけ日本酒を頼むのだけれども。
 まるでビールかのように、炭酸水をごくごくと飲みながら牡蠣の様子を見ている七海はなんだかいつもよりも身近で――そうだ、前に焼肉に数人で行ったときもちょっとこんな気持ちになった。あの時も食べないんですか、だなんて言って私の皿の上にいくつも焼き上がった肉を置いてきたのだったか――同僚の隠れた側面を見ているようでなんだかくすぐったい。
 いくらか経つと、ぱちぱちと爆ぜる音が網の上の蓋の中からする。そうしたら七海は無言で蓋を開けて中の牡蠣殻をひっくり返し、まだです、と私を止めるのも忘れない。ぱき、という軽い音と一緒に口を開く貝を見つめていたら、危ないからあまり身を乗り出さない、とさらに注意を受ける羽目になる。確かに貝が爆ぜるタイミングで熱い水分が飛ぶし、小さい殻も飛んでいるので近づくのも得策ではないし、事前に首に巻かれ直したタオルはこれのためだったのだろう。
 そのうちに七海は満足そうに数個の牡蠣を自分の目の前の皿に並べて、どうぞ、だなんて言うのだから致せり尽せりだ。ありがとう、いただきます。軍手で牡蠣を掴んで、あいた蓋をナイフでこじあけては貝の身を剥がし、深くなったほうの貝殻の端に口にをつける。隣の七海を見上げれば、既に彼はその中身を飲んでいて、目でこちらにも促してくる。熱い汁に浸った身をつるり、と口に滑り込ませれば深い潮味と滋味が熱と共に広がる。いつも冷えたものにレモンか、ウイスキーをたらしてにゅる、と味わうのとは違った賞味が舌をめぐる。おいし、と湯気を逃がすように感想を漏らせば、やっぱり隣から小さく笑う音がする。

「それは、何よりです」
「連れてきてくれてありがとう」

 殻は横の缶へ、そう言いながら七海はいつの間にか開けていた殻を数個彼の奥にある缶に落とす。自分も、と思って手に持ったままの殻を横の缶に落とせば、彼はまた網の上に新しい貝を置き始めていた。自分に近いほうに既に焼き上がったと思わしき貝も寄せていて、何も手を出す余地もない。このまま楽しませてもらおう、と思って七海のグラスを伺えど、まだ半分ほど炭酸水は残っていた。さらには視線に気付かれてか熱いうちに食べなさいだなんてお小言が飛んできて、急いで皿に乗せられた続きの貝に取り掛かる。
 いくつか調味料が並んでいたけれど、思ったよりもそのままで食べるのが面白く、七海の手元を見ながら牡蠣のふたをこじ開けていた。網の上に新しく貝を並べて終わってから蓋を落とし、一方で焼き終わった貝を皿に取り分ける七海の腕は、いつも見る品のいいジャケットでもなく、シャツでもなく、つるつるしたお揃いの店のジャケットで、なんだかそれが似合っていなくておかしな気持ちになってしまう。そもそも体格が良すぎて袖が足りていないし、と思いながらつるりと二個目の牡蠣を口に流し込む。

「なんですか」
「ん?」
「いやに視線を感じるので」

 ふわふわさとなめらかさを両立した状態の牡蠣を咀嚼し、飲み下したタイミングで七海はこちらに顔を向けて質問をする。がこん、と器の役目を果たしていた牡蠣殻を缶に落として炭酸水を一口飲めば、薄く炭酸水に溶けたレモンの残り香が心地いい。

「同僚の知らないプライベートな側面をみて心安さを覚えているの」
「そうですか?もうあなたとは何度も食事に行った気もしますが」
「それはみんなとでしょう。あ、でもみんなと行った焼肉のときと似た気持ちです、今」
「……何度か二人でゼロ次会もしましたよ」

 それは確かにそうだった。時間にきちんと間に合う、というのはこの業界ではなかなかレアな資質なので、大抵待ち合わせにきちんと間に合うことができるのは七海と自分くらいだ。三十分以上待たされそうなときはだいたいゼロ次会、だなんて言って軽くアルコールの出るカフェなりバーで乾杯を交わした記憶がある。悪しき一般社会からの文化流入だが、罪悪感なく遅れてくるメンバーの特徴を考えるとそれくらいが丁度良かった。

「や、でもああいう時ってまだ気持ちが仕事じゃない?今日はなんか、ちょっと違う感じ」
「そうですね。確かに饒舌なあなたも初めてだ」
「うん、優しい七海も初めて」

 いつものちょっと冷たい目線に戻った。ごめんって、と言えば七海は返事もなく牡蠣を手に取り、器用にぱかんと蓋を開ける。さっきまで網の上で同じサイズで並んでいた大きな牡蠣が、私の手からははみ出したのに、七海の手の中には収まっているのが不思議だった。こんな大きな手と今日手を繋いだのか。そういえば人と手を繋いだのって久しぶりだったな。

「いいでしょう。今回は私が、誘いましたからね」
「七海さま、ありがとう……」

 やっぱり七海は機嫌が良さそうだった。牡蠣がつるんと身を滑らせて七海の大きな口に滑り込むのを見ながら炭酸水を口に運ぶ。殻の白い破片が唇についていて、つい口元ばかりを見てしまう。思ったよりも口が大きくて唇が厚いな、だなんて観察したことは今まで一度もない。そういえば、別に誰の口元のディティールも思い出せそうにない。五条なんて口元しかいつも見えないのに。

「私を見ている暇があるなら手を動かしなさい」
「はあい」

 ん、とお互いの皿の間にポン酢が置かれて、七海は再び焼き上がった牡蠣に手を付ける。自分も新しいものに一つ手を伸ばし、ナイフで殻をあけて――七海が示すようにポン酢をわずかに垂らす。水気をまとった牡蠣を口に運べば、意外にも試したことのない組み合わせで――そりゃそうだ、いつも生でいけ好かない食べ方ばっかりだったもの――思わずまたおいしい、だなんて感想が漏れてくる。そうでしょう、と言いたげに七海は小さく笑いながらポン酢の蓋をあけて数滴垂らしていて、次の瞬間にはまるでショットを飲み干すようにぐいっと牡蠣を飲んでいた。

***

 ちょっと飲みすぎた、と思ったらやっぱり隣の人物も同じ感想らしく、手ではなく腕を掴まれていた。もう陽も落ちて暗くなった視界の中で、向こうに見える民家の灯りと先程の小屋の光が反射してぼやける。波が岸壁に当たる音が規則的に聞こえて、本来であれば酔い醒ましにはいい散歩道だ。長身の男に腕を掴まれたまま歩くにはあまり向いていない、それどころか小石だらけの道はヒールで歩くには一切向いていないのだけれども。
 一体いくらほど飲んだだろう、約一時間半の食べ放題の間に、数合――さらに焼き牡蠣にふりかけてアルコールの抜けきらないまま食べたのが幾らか――と思うとそれだけで普段よりも多い。やっぱり最初から私が運転して、七海に飲んでもらった方がよかったんじゃないか、だなんて普段の彼の飲みっぷりを思い出す。お酒の席は好きだが、五条レベルではないがどちらかと言うと飲めないほうであるために大抵同席している七海とグラスを半分に分けるのが最近の習慣で、しかし今日はそう言っても居られないので一人で機嫌よくこうして酔っ払ってしまっている。

「あまり海に寄らないでください。流石に落ちたらすぐに助けられない」
「大丈夫、大丈夫、わたし、落ちない」
「冬の海で……仕事以外で死ぬような真似はやめろと言っているんです」

 確かに言い分はわかる。任務中に死にました、それはそれで仕方がないともうこの年齢では思うが、休暇中に海に落ちて死にました、では浮かばれなさすぎてこちらが呪霊になってしまう。祓う側もかわいそうだ。ただでさえ忙しいのに、酔っ払ってうっかり死んだせいで呪霊になった元同僚が対象だなんて。

「ただでさえ気をつけてほしいと思っているのに」
「同僚思いだねえ」
「……そうですね」

 自分の二の腕を掴む七海の手に力が籠もる。あ、地雷を踏んだ、と思うのはいつも事後で、きちんとした姿をみせようとまっすぐ歩こうとしたらそのまま腕を引かれて七海の腕のなかに崩れる羽目になった。

「同期を失う体験はもうしたくないのですが」
「……ごめんなさい」
「それよりもあなたを失うことを想像したくない」

 七海は一向に腕の中から出してくれる見込みがない。七海のシャツに自分のブラウスが重なっている。ふたりとも匂いのついてほしくないジャケットもセーターも車に脱いできたから、今はお互いに軽装で、自分はアルコールのせいで暑いからいいものの、七海は必ずやそうとは限らないないだろう。それでもシャツ越しの七海は温かく、自分よりも太い腕が自分を七海の肉体に留め置いていて、自分の頭の上から声が降ってくる。

「あなたのことが同僚という関係以上に大切なんです」
「七海」
「今伝えるつもりはなかったんですが……」

 七海の腕が自分に強く回されて、シャツの皺がくっきりと残る。七海の身体も自分に負けず劣らず熱い。不意に自分の頬に、七海の骨ばった顔が寄せられるのを感じて産毛が緊急事態を示している。七海の吐息が私の頬の産毛を唆して背筋にぴきぴきと電気を流しては事態のディティールを細かく伝えてくる。すべての感覚器官が現象を細かく伝えていて、それは七海の肌から発せられる熱だとか、吐息だとか、至近距離でやっと香る森っぽい男性的な香水の匂いだとか、自分の腹部に回された腕の力加減だとか、肌に刺さる七海の髪の柔らかさだとか――それらすべての情報が濃密に伝わってくる。話し始めようと唇を開く動作すら、筋肉越しに伝わってくるようだった。

「わかっていてほしいと思って、今回誘いました」

 一方の私はどうすればいいのかもわからない。七海に抱きしめられたまま、ブラウスごしに心拍数が伝わっている気がする。困惑していて、歓んでいる。道中の折々に感じた、示された優しさのすべてが自分にだけ向いていてほしい、と思ったエゴすら肯定されそうな気持ちをどう表現すればいいのかはわからない。

「私はあなたのことを同僚という関係以上に大事に思っている」

 わからなかったわけではありませんね、と顔の横で確認されて、返事も言えないまま顔を縦に振る。いいでしょう、と確認する七海の声は仕事のときのようになめらかだ。

「あなたのことを独り占めしたいと思っているんです」

 心臓が早鐘を打っている。いやですか、だなんて確認をする七海は狡い。嫌だったら誘いに乗らないのを知っているだろうし、こうして抱かれたままでいないだろう。喉がからからになっていてうまく声がでない。いやじゃない、と言う五音節を絞り出すために一度小さく口を噤んで、ありったけの唾液で喉を潤して――こんなことなら途中からお茶にすべきだった――喉から声を引き出す。

「うれし、い」
「そうですか、それは良かった」

 良かったのだろうか。七海の声色はいつもよりも確かに柔らかいけれど、言葉は全然そのようには響かない。確かめるように首を回して見上げれば、眼鏡も何も掛けていない、素顔の七海が至近距離で自分を見つめ返していた。淡色の目の中に自分が映っている。確かに、普段の姿を思えば他意も悪意も何もなく、ただただ素顔の七海のままで、そのまま感情を音にしたのだ、というのが伺えた。

「キスをしても?」
「……海産物の味がする?」
「色気もクソもありませんね」

 それでもいいです、と言いながら七海はそのまま私の唇を啄む。途中からその姿勢を鑑みて腕の中で身体を反転させ、互いに向かい合う姿勢に変えた。そのせいで自分の視界が七海で満たされる。解像度がどんどん落ちていく。七海の匂い、癖のように不随意なタイミングで自分の身体を引き寄せる七海の腕の力、蹂躙する厚い舌と七海の唾液。ぼんやりするのはアルコールのせいばかりではないはずだ、と思いながら、薄いシャツに爪を立てるのも憚られたので代わりに手を掴んでしまう。岸壁で砕ける波の音すら遠く聞こえる気がする。
 
「……寒くなってきた」
「帰りましょうか」

 人目がないのをいいことに、七海は留まることを知らないかのように私の口腔内を蹂躙していた。一転、私の肩から手を離して七海は少し名残惜しそうな目をして――来た道のように私の右手を取る。七海がこんな顔をするんだ、と思ってどこか面映ゆく、取られた手の指に少しだけ力を込めて様子を伺う。アルコールでふやけた私の歩みを引くように、七海は小石の混じる道を半歩先に歩いていく。
 吐く息が白く煙っていて、無言の間その煙つい見上げてしまう。さっきの舌は、全てずっと熱くて火傷しそうだった。元の体温差が粘膜の温度差にもダイレクトに効いてくるのだろうか、とすこし考えては、そもそも七海の身体すら熱かったとその腕の中の熱を思い出して顔が火照る。熱に浮かされているみたいだと思えども、足裏に感じる小石の感触は至って平静と同じように痛く、ピピ、と七海がドアを解錠する電子音すら現実的に耳に響く。

「七海」
「なんですか」
「……なんか、現実味が薄くて」

 運転席のドアを開けた七海はいつもの顔をしていた。仕事のときだとか、高専の事務室で会うときのちょっと眉根に皺の寄った、不機嫌そうな顔。その表情がさっきまでの甘さを含んでいないことに気付いて少し胸の奥が捩じられる思いがする。

「私からもキスしてもいい?」
「……どうぞ」

 身長差を鑑みてか、七海はドアを開けた運転席に乗り込む。覗き込むように顔をドアの中に伺い入れれば腕を引かれて、七海に半分被さるような形になってしまって――軽く触れ合うだけのつもりが何度かリップノイズを立てては視線が斜交う。体勢を崩されたまま、ちゅ、ちゅう、と何度も音を立てては唇をつけ、離され、身体的優位性は七海にばかり軍配が上がる。立ち上がろうと七海の肩に置いた手にはぜんぜん力が入らない。何度目かの別離か、唇が離された時にもういいでしょう、と七海が言い出すまでうっかり七海に寄りかかったままの体勢で過ごしていた。

「全然、私からじゃなかったけど」
「気は済みましたか?」
「……済みました」
「現実であることも、お分かりいただけましたか」
「はい」

 七海の存在の現実感は、あまりにもありありと目と鼻の先にあった。唇を濡らす七海の唾液、息遣い、それから自分の腕を引く力の強さと指の先の体温。七海の表情は変わらない。小さく名前を呼ばれて、それがいつもの名字でなく自分の下の名前であることに僅かに驚きながら身を起こす。

「風邪を引く前に乗ってください」
「そうします」

 起き上がって運転席のドアを閉め、後ろから助手席に回って乗り込む。かちゃ、とシートベルトを閉めれば、いつの間にか眼鏡を掛け直した七海がいいですね、だなんて確認を取りながらエンジンをかけていた。行きにどんな話をしたっけ、続きを話そうにも何から話していいのかわからずにただただラジオの音声を聞くばかりだった。
 そういえば、と七海は人通りの少ない道を運転しながら一つだけ情報を漏らす。あなたのことは、高専時代から覚えていた。彼はそう言いながら淀みなく運転を続けている。私たちの頃にも交流会があったでしょう、一年生のときでしたっけ、あの時からですね。ラジオはゆっくりと遠くの街の天気予報を話していた。七海は遠い記憶のことを話している。確かに覚えている――あの時が初回参加だったから、東京に初めて出張して、五条と遭遇したくない、と言った先輩に置いていかれて敷地内で迷った挙げ句に私は七海と遭遇したのだった。そのときは逆光で、七海は水をボトルから飲んでいて、髪とボトルがキラキラ光って眩しかった。

「なつかしい」
「覚えていたんですか」
「思い出しました。とても眩しかった」

 それは何よりです。そう言いながら七海はちら、とミラー越しにこちらを伺っているようにも見える。会話が阻まれる理由は百個くらいあって、そのうちのひとつが時間が経って熱を帯びてきた唇と、それからいま密室の中に七海と二人きりでいて、それから自分たちがすっかり煙で燻されているような状況。そういう小さなピースが幾つも積み重なっている。さらに、この後そのまま来た道を帰るだけならそこまで言葉を探さなくても良いかもしれないが、この後宿泊予約をうっかり入れていた。
 久々に何もない休日だし、翌日観光して帰るのはどうかな、だなんて提案した過去の自分に理由を聞きたい。他意なく、久々に出張でいかない方面だからそうしたのだ。それに七海は二つ返事で乗ってきて――じゃあ私がまとめて予約を、だなんて言うものだからすべてその予約を任せてしまっていて、私はこの後どうなるのかよく把握してもいない。わかっているのは、自分の今日の下着の組み合わせと着替えの類くらいだ。今日は仕事のままきたから、不覚にも気合が入っているとはいえ、明日は遊ぶつもりでいたからリラックスした下着セットだったはずで、ほかにもいくつか欠点を思い出すことができる。

「何を想像しているんですか」
「え?」
「貴方、数秒おきに悩ましい顔をしていますよ」

 ちがうの、と言ってしまうのは自分の性の成せる業か、癖か、わからない。私こんなことになるとは夢にも思ってなくて、全然デート向きの支度をしてなくて。何が違うんだ、と言ってから気付くうえに、七海は心底面白そうな目をミラー越しに向けてくる。なんなら口角だって上がっているじゃないか。

「……少なくとも、今はデートだと認識されているようで何よりです」
「そういうこと、いうから……」
「いえ、貴方がそういう性質なのは理解しています。意識して同僚と旅行に来るような性格なら、私もここまで苦労しません」

 それにしても、と七海は面白そうに喉を鳴らす。それにしても、ふふふ。デートだと普段と変わるんですか、ふうん。何が面白いというのだ。デートなら、化粧水だって使い捨てパックじゃなくて別に持ってくるし、ちょっと可愛い下着にするというのに。パジャマもコンパクトさよりも可愛さで選んだだろう。まだそういう気持ちは自分の中に存在している。

「気になるなら、今日は東京に帰りますか?」

 確かに、まだ帰れなくはない時間なのは知っている。そして私がその選択肢を取っても七海が怒らないことも、しれっと後日に休みの日程を伺ってくるだろうことも想像できる。

「私は逃した魚を思いながら、酒でも飲みに行きますので、お気になさらず」
「……帰りません」
「そうですか。……いいんですね」

 うん――そういう曖昧な返事しか出来ないまま、運転席の七海の顔を伺う。緑の瞳は前を向いたままで、少しだけどぎまぎした空気が支配的なまま、車は夜道を進む。……地方の明日の天気は、晴れ、北西の風、ラジオから流れる知らない地方の天気予報だけが耳に残ってどんどん思考のリソースが削られていく。駅まであと十数分なのは行きからもわかっているはずなのに、どうしてもうるさく騒ぐ心音を止められないまま目を閉じた。
20220215 chloe first post in pixiv and reprint in 20220601.
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