北へ 後
「っあ……な、なな、み……っう」
何回も何回も、指でかわるがわる身体中を探索されて、終いに知らなかった快楽のポイントまで発見されて――久々に私の身体は身体の奥から心底七海のことを求めていた。指で何度もイかされて、――一度は身体の中に指すらねじこまないまま――一向に下着を脱がない七海にはしたないと思われてもいいから強請って挿入れられたらこの始末だ。七海の緑色の瞳に自分の痴態がまざまざと映り込んでいて気恥ずかしい。
そんなに離れたところから、みないで、とばかりに顔を近づけてキスをねだれば、口づけと一緒にさらに奥の方に七海の固く膨らんだ陰茎が押し込まれる気配がして身体の奥が歓喜で戦慄く。七海の舌で口は満たされていて、鼻で吸っても全然必要な酸素の量に満たなくて目の前が白くチカチカする。舌をねじ込まれたまま、何度も中の入り口から奥までを辿られ、奥に擦り押し付けられている中で自分の身体だけが、絶頂の気配を悟っている。そんなにはやく、こないで、と思いながら抗う術もわからず、七海の背中に腕を回したまま――また零れ出る声を止められないまま果ててしまう。ぎゅうと膣内で七海を絞れども七海はその動きをやめようとせず、声は漏れ出るままになっていて、喉も頭もおかしくなりそうだった。
「やめ……やめて……もういった……いったからあ」
「さっき……あなたが言ったんですよ」
ぐりぐりと奥に陰茎をねじ込みながら、七海は右耳に吐息混じりに答える。さっきまで、あの長い指で何度も押し込まれていて酷く敏感になっていた。指よりも容易くさっきの――前々回の絶頂を――再現をされている、と身体が歓んでいるのがわかる。なんなら自分の気持以外はそれを歓迎しているとも。繋がった部分から、自分の零した蜜が漏れ出て自分の身体を伝っているのも、それが七海にもべったりとついているのもわかる。七海が動くたびに掻き出されては、彼の身体との間でぴちゃぴちゃと淫靡な音が立つ原因はそれだ。空調の音しかしない室内でその音は酷く耳につく。
「もっと欲しいって言ったのは、あなただ」
「そう!……っだけどっ……」
さっきまで、挿入を乞い願うまでの紳士的な七海はもういなかった。さっきまでは七海は私の身体を気遣う風に酷く丁重に私の身体を扱っていて、身体中にキスをする手付きの柔らかさと言ったら優しい以外の何物でもなかった。くすぐったいよ、と笑っていたらいつの間にかそのくすぐったさが甘く痺れてきて、ベッドに来る前にソファの上でひとり絶頂を感じていたのは始まりの頃だったか、もう直近の記憶すら曖昧だ。その後は、ベッドに連れてこられて腕の中にいる気がする。
「挿れただけでイくのは感心しません」
ゼエゼエと私が息を大きく吸う中で、七海は不意に擦り上げる部位を変える。快楽の奥底に落とされたと思っていたら、さらにその奥にも底があるみたいでどんどん快感がうねりを増して自分の中で渦巻いていく。与えられている快感が想像を何倍も上回っていてもう何も複雑な事が考えられない。七海の髪が目の前にあって、間接照明の中でもキラキラしていてきれいだとか、服を脱いだら思ったよりも胸板が厚くて押し潰されかけている、だとか、そんな間近な感想しか出てこない。馬鹿になった私の口は七海の名前と気持ちがいいことしか彼に伝えられないし、このまま彼に身を委ねたらどうなってしまうのだろう、くらいの解像度でしか想像ができない。きっとこれ以上に気持ちよくなってしまって訳がわからなくなるのだろう、そう思うだけでお腹の奥が物欲しげに疼いて七海をぎゅうと締め上げる。
「っや……ななみ……」
「ここが好きですか」
「ん!……ッや、おく、……のがっ、いいッ……!」
ずく、と七海はその言葉をキーに再び私の奥に身体を沈める。足はもう開かれたまま七海に固定されていて、逃れようと足を閉じさせてもくれない。ただただ身一つですべての快感を受け止めさせられて生理的な涙すら漏れ出ているのがわかる。そのせいで声が勝手に潤んで、自分でもびっくりするくらい声が物欲しそうに響く。びくびくと身体が勝手に跳ねてしまって、きっと七海にはまた絶頂が直ぐ側に来ていることなんてバレているだろう。はしたなくて幻滅されたかもしれない、でももう止められない。自分の腰が勝手に七海に擦り寄っているのもわかっているけれど、まだまだ序の口の頃に指摘されてもなお止めることができなかったのに今できるわけがない。
「!あっ、あっ、あっ……っ……はあっ……はあっ……や……やああ……」
七海が自分を呼ぶ声がする。流石の七海も息が切れていて、自分に掛かる彼の吐息はただただ熱くて触れたところから火傷しそうな心地すらする。名前を呼ばれる度にじわじわ嬉しさと快感が耳の奥から滲み出てくる。あの、素敵な人が、私の名前をこんな至近距離で呼んでいる、しかもこんな生々しい実感を伴っている。それだけでずぶずぶに頭の中がとろけてしまいそうだった。
「教えて下さい」
「な、なっ……ななみッ……ん……んんッ!ん!」
「次から、イくときは……言えと」
指示された瞬間が、ちょうど絶頂の頂点だった。頭がうまく働かない中での指示は酷く混乱して、返事とも嬌声ともつかない声を七海の肩口に零しながらびくびくとナカで七海を吸い上げる。う、だとかあ、だとか、もう何もかもめちゃめちゃだ。もう何もわからない状態で七海にしがみついている、それが一番しっくり来る状態だった。七海が耳元で中に出します、と言ったのすら気持ち良さの渦の中で理解が遅れていて、七海がさらに激しく動き、振り落とされそうな意識の中で悲鳴と嬌声の間みたいな音を漏らしながら受け止める。
「ッあぁー……っふぅ……う……な、な、みい」
「ーッ……」
荒い七海の吐息を直に受けながら、薄い膜の向こうでびくびくと液体が吐き出されているのを感じる。七海に痛いほど抱きしめられるなかでやっと自分の身体の奥で脈打つ七海の陰茎をシンプルに感じてくすぐったい気持ちだ。自分の身体が不随意に動いて無駄に刺激を与えてしまう。ひと心地ついたらしい七海がやっと私の身体を掴んでいたのを離し、起き上がろうとして動いたせいで彼が身体で潰していた陰核に刺激が走って、どこかに隠した覚えもない、知らない自分の声が反射的に静寂の中に溶ける。
「……ゃ」
「フーッ……最後まで、気を抜かない」
いつもの報告書の誤字を指摘するような内容が、幾らか優しいニュアンスで間近からするとぞくぞくしてしまう。きっと今の私の顔は欲情でどろどろではしたなくて、数時間前――チェックインしてこの部屋についた直後――お風呂に入った時に入念にケアしたはずの肌も汗やら何やらできっと汚れているだろう。身体が離されるにつけ、力を失った自分の腕が七海の背中から落ちてその手の行き先は自分の顔しかない。
はしたなさすぎるから見ないで、と言い掛けては腕が掴まれ、薄い間接照明の明かりをまぶたの向こうに感じる。細く目を開ければ、髪をおろしたままの七海がやっぱりこっちを見ていた。七海も薄く汗をかいている。それは身体もそうで、七海の胸の中にいる間しっとりと私達の肌はそのおかげで分かちがたくくっついていた。その吸い付きが酷く心地よかったのもあって、身体が離された今、自分の肌が空気に晒されてすこしひやっとしていることがこの羞恥を煽っているのだと思う。
「はしたなくはない」
「……っう」
「ただ、思ったよりも……」
七海はそのまま身を私の中から引き抜いて、重そうに自分の横に寝そべり直す。いきなり質量が自分の中から失われて、喪失感でお腹の奥が切なくきゅうと震える。同時に自分からこぼれ出た蜜が、七海によって閉じられた自分の足の間にとろりと流れて気持ちが悪い。まだ入っていたときのように入り口が痙攣している気がする。七海の身体で押し開かれていた足の付け根が今更じわじわと違和感を示している。教科書を開く時に癖付けをするように開かれていた私の足は、やはり教科書のようにすぐ閉じず――まるでハイティーンのときのような違和感だ、と頭の片隅で思う。確かに今日は初めての発見も多かったけれど。
「反応が良くて興奮しました」
七海は仰向けのままの私の、湿度を保ったままの頬を横から撫でる。首から上だけを七海のいる方に向けてその感触を甘受していたら、七海の指は私の唇の輪郭を辿りだす。間近に囁かれた言葉のせいで触れられたところの温度が上がっている気がする。身体の奥底から、七海に快楽の電気回路を作り変えられてしまったような気がする。自分の知らない性感帯すら探しあてられて、長い歓楽の渦に落とされてしまった。ななみ、と唇だけで呼べば、彼はそれが聞こえているかのように目を眇める。
「でも、今日はちゃんとイくことを申告できるようになるまで止めません」
何回お願いしましたか、と七海は楽しそうに続ける。その言葉の意味するところに勝手に身体は喜んでいて、さっき質量が失われたことに抗議を上げていた下腹部が歓びで疼く。七海の示している回数は私達がベッドに居を移してからの絶頂の回数を示していて――四回だ、ソファでの前哨戦でも言われたので、指摘されなかったのは挿入を乞うた直後の回だけだ――確かにいずれも薄ぼんやりとした意識の中で七海からちくちくと囁かれていた気もする。
「私ばかり置いていかれていく。次は、言えますね」
「うん」
力の入らない手を、肘から先だけ上にあげて七海の手に近づける。小指以外を軽く握り込んで差し出せば、七海はそれに自分の手を差し出すでもなく唇を寄せ、ちゅうと爪先を吸って音を出した。舌の先がちらちらと指先を浚っていて、覗く舌と感触が身体の奥の情欲の残り火を煽っていた。自分の視線の先で緑色の瞳が細められていて、覗き込めば自分の身体の奥に灯っているのとおんなじ炎がちらちらと閃いていた。私達は同じ地点にいると思うとなんだかくすぐったい。
それでも次が始まる前に――ゆっくり重たい腰を引きずって七海の身体に身を寄せる。七海の身体はやはりまだ熱を帯びていて、筋肉質な人間特有の体温の高さを感じながら、安堵の気持ちで目を伏せる。髪ももうぐしゃぐしゃになってしまっているだろうが、仕方がない。全部終わったら、もう一度お風呂に入って――いや、次を始める前に軽くでいいからシャワーを浴びたい気もする――この腕の中で安堵を感じながら眠りたい。興奮を感じながらも安堵を求めるのは間違っているだろうか? 少なくとも、ソファの上で抱きしめられていた時に安堵してしまったせいで身体の隅から隅までの侵略を許してしまったのだけれど。
「七海、シャワー、浴びない?」
「……もう少しだけこうしていましょう」
七海は私が寄せた身体に手を置いて、少し乾燥した手で私の肌を撫で回す。肉刺のある手のひらがくすぐったくて私はやっぱり声を我慢できず、思ったよりも掠れた自分の声にびっくりしながら小さく咳払いをする。バスルームに立つ時には水もたっぷり飲み直そう。でもその前に立ち上がれるかが問題だ。七海が体勢を変え、長くて重たい足を私の足――細かな震えが止まらない――の上に放り投げていた。
明日は水族館と城跡を見て帰りたい、だなんて言っていた数時間前の自分に言えることは、それは確実に難しく、きっと帰りの新幹線でもぐったりと七海に寄りかかって眠るだろう予想が立てられている。それだけは確実だろうし、何なら七海は同僚向けの土産物まで手配をするだろうな、ということも言えそうだった。
「ニヤニヤして、なんですか」
「ううん、夢心地で」
「一人で楽しまないでください」
置いていくな、七海はそう言いながら私の胸の膨らみの下に手を伸ばす。置いていかないで、と言いたいのは私の方だ。彼の指が乳首に触れそうで触れなくて、小一時間前のことを思い出すのだから。シャワーを浴びよう?と提案すれど、七海は生返事をしながら私の唇にちゅ、ちゅと軽く触れるような口づけをするばかりだ。その小さい口づけは小さく身体の内奥に響いて、私の肌にさざめきを起こす。私はそのさざめきが快感の波を呼ぶのを知っている。おそらく彼も――七海もわかっていて、指がトントンと調子を呼ぶようにやわらかい胸の膨らみに掛けられていた。
「いいですか」
「シャワー、浴びよ?」
目をぎゅっと力強く閉じて――職場でよく見る、何かを言うのを諦めるときの表情だ――七海は構いません、と言いながら半身を起こす。七海の背中の向こうから、避妊具を外す音がしたのでいっそ身体を起こしてティッシュを取ってあげようと思ったけれど一切起きあがれない。腰の甘い疼痛と足の付け根の違和感に、ななみい、と甘ったれた声を出せばいつもどおりの目付きの悪さが自分に向けられていて、言わんこっちゃない、とその視線は語っていた。ゴミ箱にテイッシュに包んだゴミを捨てた七海はため息を付きながら私に手を伸ばし、私はそれを掴むことしかできないまま、七海の身体がもう一度近づくのを感じていた。
「心配です」
「七海のせいだよ」
「……これでは、本当に業務影響がありそうだ」
七海は私を抱き起こしながら、東京でももう少し慣れてもらわなくては、と私の耳をくすぐる。その響きが先の期待を孕んでいて、東京に帰ってもまだこれの続きが広がる、と思うだけで期待で身体の内奥が疼いてたまらない。甘えて彼の名前を呼べば、彼は更に間近で健人と呼びなさい、と私に小さく訓戒を落とすのだった。その彼の名前の響きすら、今の私にとってはひどく甘く腰に響いて仕方がない。
20220215 chloe first post in pixiv and reprint in 20220601.
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